本格的なレコードプレーヤーのテストなので、それにふさわしいスピーカーとして「大型ウッドホーン」のZingali 1.12を選んだ。アンプには、アナログソースの再生については私が絶大な自信を持つ(世界で最高だと思っています)AIRBOWのオリジナルアンプの中から「LUNA」を選ぶ。
今回のテストには、ノラ・ジョーンズのレコードを使おうとした。ノラ・ジョーンズなら多くの方がCDやSACDを所有していらっしゃるから、リポートが分かりやすいだろうと考えたからだ。しかし、そのレコードを聞いてみると相当音が悪かったので使うのを止めた。
たった一枚のレコードですべてを判断するのは危険だが、ノラ・ジョーンズを聞く限り、デジタルマスターからカッティングされたレコードの音質には疑問を持たざるを得ない。レコードはやはり、アナログマスターからカッティングされたオリジナルが音質的に優れるようだ。
【Interspace
HD+ファーストタイム】
ウォーミングアップを兼ねてA面を鳴らしてみた。
低音が僅かに不足すると感じたので、B面に移るときに逸品館推薦の高級セパレートアンプAmbrosia+Ampzillaにつなぎ替えた。その瞬間!絶句した。逆の意味でこれほど音に差があると思わなかったからだ。LUNAと比べ高域はぬるく、エネルギー感は弱く、1.12がしょぼしょぼとしか鳴らない!
SACDでも所有している「ファーストタイム」をAmbrosia+Ampzilla+Zingali
1.12の組合せで聴いたときには、素晴らしかっただけに、これほどのミスマッチングは全く予想していなかった。
低音も「LUNA」の方が、引き締まり透明感が高い。そして高域の“抜け”が全く違う。実用車のエンジンとレーシングカーのエンジンほど、レスポンスが違う!
正直驚いた。
レコードを聞く機会が少なくなり、試聴ソースにもデジタルを使うようになって、AIRBOWのオリジナルアンプに与えた「レスポンス」がこれほどまでに引き出されることはなかっが、今回のテストでその「大きな差」を再確認することになった。
AIRBOW TERA、LUNA、LITTLE
PLANETには、先進のインバータ電源を搭載し、シグナルパスを短くするために増幅回路にICを使っている。それは、すべてアナログソースのもつ「高域の鮮やかさ」を余すところなく再現するためだった。その凄さを今さら、自分自身で再認識することになろうとは・・・・。
A/B面を一通り聞き、再びレコードをA面に戻し本格的に試聴を開始する。
聞き慣れたSACDと比べると、低音はやはりやや控えめだ。しかし、前後方向の奥行きや空気感、目の前で演奏が行われていると感じられる「雰囲気の濃さ」がレコードにはある。
金管楽器の切れ味や、シンバルの響きの高域方向への伸びやかさには、SACDとの差はほとんどなく、場合によってはSACDがレコードよりも優れていると感じるだろう。しかし、各々の楽器の「音色の違いの鮮やかさ」や「アタックの早さ(切れ味の鮮やかさ)」では、レコードが明らかにSACDを上回る。これは、解像度とか周波数特性とか、そういう測定可能な物理特性の差では、説明できない「感覚的な差」である。
演奏の緩急、楽器のエネルギーの大小、一般的に音楽の三要素とされる「メロディー」、「リズム」、「ハーモニー」の何れもが、SACDよりレコードがより鮮やかだ。
繰り返すが、これは物理特性ではなく感覚の違いである。音は鋭く鮮やかでクリアだが(それはLUNAの特性によるところも大きい)、中域には温かみと厚みがありデジタルとは、また違う「表現力」が確かに存在する。
ピアノの分厚い音、トロンボーンのハーモニーの厚み、そこに人肌のぬくもりと柔らかさが感じられる。この味わいこそ、未だにレコードに固執するオーディオマニアの理由なのだろう。
【Interspace
HD+バッハ平均律】
このレコードはCDで所有している。それと比べると「チェンバロを取り巻く空気の響き」がレコードにはあって、CDでは薄い。だから、演奏が始まった瞬間、文字通り「チェンバロの演奏が目の前で始まる」感覚になる。
チェンバロの音質そのものは、カンチレバーなどの余計な「共振系」が存在しない、CD(デジタル)の方が、間違いなくピュアで透明度が高いが、ファーズとタイムと同じく「味わい」という部分では、レコードがCDを超える。
チェンバロは楽器の中でも「共鳴部分」が小さい楽器だ。ハープもそうであるが、そのため音質テストを行うと「再生系の共鳴」を明確に聞き分けることが出来る。先にも書いたが、この演奏のチェンバロの音には明らかに「再生系の共振」が乗ってくる。そのためチェンバロの「弦の音のクリアさ」には、若干の濁りが生じる。しかし、それが雑音とならず、その響きはチェンバロの楽音をより豊かにし、リスニングルームを美しいエコーで満たす。レコードの再生で生まれる「響き(歪み)」は、ある種の「疑似サラウンド効果」を発揮して音楽を聞く喜びを高めてくれる。
しかし、この演奏に関してはCDが優れていると感じる部分もある。それは、チェンバロのアタック部分の再現である。レコードでは、その最初の部分にも僅かに響きが乗ってしまい、チェンバロの持つ凛とした透明な切れ味が若干後退する。アタックの先鋭さ透明感ではCDの音が心地よい。録音の可否も影響するのだろうし、今回聴いた楽曲が「バッハ」というのも理由になるだろう。その部分だけが、唯一物足りないかった。
※2009年6月26日よりクリプトンとカメラータがコラボして、アナログ音源の高音質デジタル配信が始まった。今回テストに用いたチェンバロのレーベルは「カメラータ」である。これは偶然ではなく、カメラータが収録した「エディット・ピヒト・アクセンフェルト」のチェンバロは、私が最も愛する演奏の一つで、そのリクエストに応え「カメラータ」が96kHz/24bitでそれを今後配信してくれると約束してくれた。CDを超えるデジタルで、アクセンフェルトが聞けることが今から楽しみである。

【Spacedeck
Classic+ファーストタイム】
慎重に組み立てを済ませ、カートリッジの針圧を2.0gに調整しレコードに針を落とす。Interspace
HDに比べ低音の厚みが増したが、高音の抜けが悪くなり、音が重くなった。そこで、針圧計を使わず徐々に針圧を軽くすると、高域の抜けが良くなるポイントを見つけることが出来た。レコードを一旦外し、針圧を計ると約1.8gだった。念のためにP-3Gの適正針圧を調べると1.7-2.0gだった。聴感と説明書の指示は一致したから、この針圧で間違いない。
再び試聴を開始する。針圧を調整したにもかかわらず、まだインタースペースHDと比べると音が重く、音楽が弾まない。決して悪い音ではないのだが、直前にインタースペースHDで聞いた、あの「底抜けの明るさ、楽しさ」が再現されない。この雰囲気ならSACDの方が良いかもしれない。
理由を考えると二つ思いついた。
一つは「ターンテーブルシート」。インタースペースHDのターンテーブルシートは、現在は日本で販売されていないイギリス製のリングマットを使っている。このシートは、音離れが良く軽やかに空間が広がるので私がとても気に入っている製品だ。スペースデッキ・クラッシックに付属するターンテーブルシートと比較して明らかに音はよい(私の好み)。
次にアームの違い。アームを詳しく観察すると、インタースペースHDのアームはスペースデッキ・クラッシックのそれよりも細い。ノギスで外径を計ると、インタースペースHDが8mmでスペースデッキ・クラッシックが10mmだった。物理的には、スペースデッキ・クラッシックの10mmの方が剛性が高く性能も向上しているはずなのだが、インタースペースHDに合わせてチューニングした、カートリッジやフォノイコライザー、昇圧トランスの音質とのマッチングでは、オーバーダンピングとなってしまい「響きの良さ」が減退しすぎる嫌いがあるようだ。
解像度やD/Fレンジも両者はそれほど変わらないので、アームの追加が容易に可能な点や、組み立ての簡便さなどから、私はインタースペースHDを推薦したいと思った。
【Spacedeck
Classic+バッハ平均律】
インタースペースHDと比べると、チェンバロの音は引き締まり余計な響きが減少する。透明感が増し、楽器の動きが鮮明になる。
しかし、ファーストタイム同様に楽しさは確実に薄れ音楽の弾みにくいモニタースピーカーで聞いているように重苦しい雰囲気となる。少なくとも、これは私が鳴らしたいZingali
1.12の音ではない。国産のオーディオにありがちな、間違った方向の解像度が高くても、音楽が躍動しない方向の音質だ。これなら聞き慣れたCDを私は選ぶ。音と音の繋がりの関係も崩れ、演奏が分解されるような印象。音質だけを求めるなら、この方法は正しいのかも知れないが、私には合わない。面白くない音だ。