逸品館メルマガ バックナンバー 099

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逸品館ショッピングカートメルマガ 2008.11.08

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■ 想像力という「音質」 ■


オーディオ雑誌をお読みになられるのはなぜですか?それは、すこしでも「音を良くしたい」からに違いありません。間違っても「音を悪くしたい」と考える方はいらっしゃらないはずです。私は約10年ほど前に「ありのままを再現して欲しい」という音楽家の要求に従い、「高音質技術の飽くなき追求」を行っていました。最初は、おおかたのオーディオマニアと同じように、市販機器の組合せとオーディオ・アクセサリーを利用して音を良くしようと考えました。やがてそれが限界に達すると、機器内部の改良にまで着手しました。相当な努力の後に「音質の追求への要求」が満たされると、次に「正確な音場再現への要求」が生まれました。

理想の録音再生を追求するため、遂にはマイクを最も良い席に設置し、最高の音質で録音する目的で「コンサート(600人規模のリサイタル)」を主催したほどです。この演奏会では、最も音の良い席にマイク2本を2.5mの幅に設置、ステージ(仮想音源)までの距離を左右で完全に同一とし、さらにはレーザー光線を使ってマイクの方向までも精密に決めました。このようにして作成されたとてつもない高い精度の「マスターテープ」を、録音時のマイクの幅と同じ2.5mに設置したスピーカー(もちろん、AIRBOWのレーザーセッターで精密に位置決めしてあります)を使って再生したときの驚きは、今でもハッキリと覚えています。コンサート会場で「生を聞くよりも緻密で正確な音と音場が出現した」からです。生演奏と寸分違わないのに、生よりも情報量の多いライブがリスニングルームで再現された瞬間でした。

しかし、その装置で市販の「ソフト」を再生した時の失望は、それ以上に大きいものでした。市販ソフトには、私が行ったような「理想的な精密さ」で録音されたものは一枚もなかったからです。結果として精密に再生すればするほど、マイク設置位置の失敗、編集のつなぎ目、録音音量のミスマッチング・・・、数え上げられないほどの「録音時のミステイク」がすべて再現され、それはとてもじゃありませんが「音楽」を楽しめる音ではありませんでした。装置を磨き抜いた結果、「聴けるソフトがなくなった」。大いに失望した私は「オーディオ」を止めようと思ったほどです。

話は変わりますが、私は「チャップリン」の映画が大好きです。彼の作品の多くは「モノクロ・サイレント」です。アメリカ映画のほとんどが「トーキー」になった1931年になってから、彼は名作「街の灯」をあえて「サイレント」で作ります。彼は「限られた人にしか通じないトーキー映画よりも、全世界の人々に通じるサイレント映画の方が普遍性がある」と考えたからです。

このように「トーキー(台詞)」を嫌ったチャップリンですが、映画の「伴奏音楽」には強いこだわりを持っていました。当時は映画館(劇場)にはステージの前に凹みがあって、そこで小さなオーケストラが映画(劇)のシーンに合わせて生演奏を行っていました。チャップリンはそのオーケストラに、映画に合わせた伴奏を行うための専用のキューシートを配布していたほどなのです。多くの映画の中から私が思い出すシーンの中でも「モノクロ」には、カラー作品にはない特別な感慨を覚えます。もし、チャップリンの映画が「フルハイビジョンのサラウンド」で撮影されていたら、これほどまでに世界中の人に愛されて、心を深く打ったでしょうか?

モノクロで撮影された映画には「色」がありません。しかし、色がないからこそ観衆はそれぞれ思い思いの「色」で映画を楽しめるのではないでしょうか?無声映画には「言葉」がありません。しかし、だからこそ人々は「様々な言葉を思い浮かべる」ことができるのです。色を捨て、言葉を排したことによって「想像による自由度」が生まれ、一つ一つのシーンが「自分自身のもの」として心に強く刻み込まれるのです。

SPの音を素晴らしく感じ、あるいは蓄音機の音が心に響くのも「モノクロ映画」と同じではないでしょうか?あえて「余計な音を省略する」ことにより、聴衆の想像力をかき立て「解釈の自由度」を増し、作品に「深み」を加える。これこそが「芸術の本質」です。

オーディオ技術の進歩は、我々から「想像力」を奪い、音楽の持つ豊かさを消し去りました。「音を良くする」ことで、音楽の豊かさを失われてはいないでしょうか?オーディオは「精密写真」であってはなりません。それは「絵画」でなければならないのです。SPがSACDより生き生きと聞こえるのは、レコードがCDよりも艶っぽく聞こえるのは、それらが「絵画」としての深い味わいを持つからです。私たちの心の中には「想像力という音質」があります。中途半端な高音質化でそれを奪ってはいけません。「想像力から生まれる音」は、現実に耳にする音よりも遥かに「美しい音」です。やがてそれは記憶の中で美化されて、時と共に輝きを増します。そして、心に深く刻まれるのです。

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