逸品館メルマガ バックナンバー 164

先週開催されました「ハイエンドショウ東京2010Spring」は、ほぼ前年と同じご来場者数に達し無事終了いたしました。不況の影響で出展社が淘汰され、「力(勢い)のあるメーカー」だけが残ったためか?全体的にデモンストレーションのグレードが向上し、以前にも増してスムースな進行が実現したのではないでしょうか?逸品館のブースにも多くのご来客を賜りましたことを心からお礼申し上げます。


逸品館のブースのデモンストレーションは、事前のご案内通り「My Sound」と「Future Sound」の2つを交互に行いました。「Future Sound」では、今話題の「PCオーディオ」を取り上げましたが、さすがに売り込み中の技術だけあって、今回は半数近くの出展社が何らかの形でPCオーディオに絡んだデモを行っていたようです。私も空き時間にいくつかのPCオーディオ関係のデモンストレーションを拝見しましたが、「総合的な解説レベル」が不足しがちで、果たしてあの説明でご納得頂けるのだろうか?と感じることが少なくなかったです。

オーディオにかかわらず近年は、あまりにも速い速度で技術が進歩し続けるため、最先端を担う一部の人間でなければ「製品についての総括的な説明ができない」ようになっています。例えばiPodやiPhoneでおなじみのアップル社では、新製品の発表会は世界最高のCEOの一人である「スティーブ・ジョブス」が先頭に立ちます。わざわざ彼が解説を行うのは、会社のトップという立場やそのカリスマ性もあるのでしょうが、彼ほどの才能の持ち主でなければ最新技術の塊であるPC新製品の説明がスムースに行えないのも理由の一つだと思います。逆に考えれば大企業のトップであると同時に、正確な製品解説も行える彼の才能には敬服するばかりです。

PCと比べてオーディオは簡単そうに思えるかも知れません。しかし、デジタル技術に加え人間の感性まで深く関わるため、オーディオの解説はPCのそれよりも遥かに難しくなっています。アナログ全盛時代には技術を深く理解しなくてもオーディオを面白く解説できたのですが、デジタルやPCが導入されてからは最先端技術や理論も同時に深く理解していなければ、オーディオの真髄を説明できなくなりました。そもそもが「文系」である「音楽」への深い理解と同時に、「理系」である「デジタル理論と技術」への完全な理解が求められるところが特に難しいと思います。

古くからの解説者は「文系=音楽」に卓越していますが、「理系=デジタル理論」にはついて行けず、「理系=デジタル理論」の説明に卓越するPC環境で育った技術者は「文系=音楽」に対する理解が甘いなど、今やオーディオを「総括的に説明」するためには、以前にも増して多岐にわたる知識と理解力が必要とされています。本来であればその能力を持つ人だけが「解説者、評論家」となるべきですが、残念ながらその点で今回のデモでは「説明員」・「評論家」の理解が足りなかったように感じられました。

なかでもPCオーディオのデモンストレーションで解説の内容を「経験したことだけ」に留めれば良いのに、それを無理やりに理論説明にこじつけてしまい、結果として論点が不明瞭で技術的には間違いだらけの解説に陥ってしまったケースが少なからず見受けられました。私は逸品館のブースでそういう点に注意しながら「分かること」と「分からないこと」を明確にして「PCオーディオ」の解説を行ったつもりですが、果たしてどうだったのでしょうか?

では状況説明はここまでにして、逸品館のデモンストレーション「内容」に話を進めましょう。


「Future Sound」は、PC(HDD)に収録された音楽ファイルを外部DACで再生する時、接続方法で音が変わる説明とPC内部で音源をアップサンプリングすると音が良くなる説明から始めました。

まず、音楽データーをCDからPCにWAVもしくはWMAのロスレスで取り込んだファイルをWin Ampで再生、USBからデジタル出力してRatoc RAL-2496UT1でS/PDIFに変換し、それをAV8003/Specialに入力する方法で音を聞きます。


機材と接続ケーブルは次の製品を使いました。
PC-(USB・Wireworld STB)-Ratoc RAL-2496UT1-(同軸デジタルS/PDIF・AET SIN
DG75/EVO)-Airbow AV8003/Special、MM8003/Special-Focal 1028Be(With
Airbow CLT-3)


ソースは、矢野顕子さんのCD/SACDハイブリッドソフト「ピアノアキコ。」から1曲目の「中央線」を使いました。


CDの「生データー」をこの方式で出力するだけで、オーディオイベントに十分使える音質で音楽が再現できることが分かります。次にCDを生データーの「44.1kHz/16bit」でPCに取り込んでから、Windows Media Encoderで「88.2kHz/24bit」にアップサンプリングしたものに切り替えて同じ曲を再生します。どうでしょう?嘘のように高域の濁りやもやつきが取れて、見晴らしが良くなりストレスなく音が広がるようになります。一音一音の輝きや音色の良さも改善し、まるで違うディスクを聴いているようです。

次に接続をLANに切り替えます。プレーヤーソフトは変えず、PC(HDD)からHUB(バッファローの安物の4出力スイッチングハブでコンデンサーを高周波用の高級品に変えています。余談ですがHUBのコンデンサーを高級品に変えても音質には大きな差はありませんでした)を介してAV8003/SpecialとKAZ接続します。HUBまでのLANケーブルは、市販品の高級ケーブルと高級端子を使ったカテゴリー7を使い、HUBからAV8003/SpecialにはAudioquestのオーディオ用LANケーブル(RJ-45G)を使いました。AV8003/Special側に良いryo緯線を使ったのは、ハイエンドショウ2009Springで訴求した「DAC(今回はAV8003/Special)に近いケーブルが音質を最も大きく左右する」という経験から得られた接続方法です。

ちなみにRJ-45Gは、カテゴリー5のケーブルですがPC-HUBを繋いでいるカテゴリー7のケーブルより明らかに高音質なので、ケーブルの音質はカテゴリーで判断できないことが分かります。また、LANケーブルで音が変わることが分かったので市販のLANケーブルを何本か購入してテストしましたが、平型ケーブルが全般的に透明度と解像度が高く、丸型ケーブルは広がりがありますがノイズが多いのか?音が曇る傾向が見られ、総合的には平型が優位に感じられたことを報告しておきましょう。繰り返しになりますが、LANケーブルでも音が大きく変わります。デジタル伝送を理屈で考えた場合、それはとても不思議なことです。

PC(HDD)からの接続をUSBからLANに変えると高域の見通しが良くなり、霧が晴れたように音が良くなります。その変化はCDのデーターをアップサンプリングして得られる改善と方向はよく似ていますが、結果はさらに大きなものです。このデモンストレーションからPC(HDD)と外部DACは接続方式によって音質が大きく変わることが確認できました。その理由ですが、LAN接続は通信スピードが速く双方向で「ベリファイ(検証)」を行いながらデーターをやり取りするのに対し、PC-DAC間のUSB接続は規格がきちんと定められておらず、中には一方通行のケース(ベリファイが行われない)すら存在するなど、データーの扱いがLANよりも「不安定」であることが考えられます。またLANでは、データーのやり取りの間に「メモリーバッファ」が入っている(LANケーブルを抜いても、1秒程度音楽が流れ続けることからメモリーバッファの存在が確認できます)ため、常に安定したデーターがDACへ送られる点も音質に有利に働いていると想像できます。

とにかく現時点でのPCと外部DACの接続は、LANが最も有利でFire Wire(IE1394)がほぼそれに準じます。USBは、絶対ではありませんがそれらより明らかに劣ることが多いようです。結論として可能であればLAN(もしくはIE1394)を使うことが安心ですが、USB規格も今後の進歩(現在オーディオではまだVer1.1)で音質も改善される可能性があり、どれが絶対とは言えない状況です。

続いて矢野顕子さんの生ディスクをAirbow UD8004/SpecialにセットしSACDを再生、7.1ch Direct(アナログ)でAV8003/Specialに入力してPC(HDD)-デジタル接続の音と聞き比べました。データーがSACDに変わるのでもちろん音はさらに良くなりますが、PC(HDD)では寂しかった「響きの多さ」、「音色の美しさ」、「表現の艶やかさ」などが付け加わることが感じられます。これは、CDプレーヤーにはCDプレーヤー独自の音作りがあり、PC(HDD)ではそれがなくなるため、「音楽の雰囲気」があっさりしてしまう?のではないかと考えています。会場でも説明しましたが、メディアがレコードからCDに変わったとき「雰囲気が薄くなった」のはレコードプレーヤーに避けられない歪み(例えばクロストークの発生)がCDでキャンセルされてしまったため、レコードプレーヤーが持っていた音楽再現の雰囲気の濃さや前後方向への広がりが失われたのだと考えています。

一般的に販売されているパッケージメディアに収録されている音楽は、マイクが捉えたそのままではなく、一般的な再生機器(昔はレコードプレーヤー、今はCDプレーヤー)に合わせてレコーディング(ミキシング)エンジニアが加工(エコー処理やパンニング)などを最適化しているため、彼らが想定した再生機で再生しない場合には、意図した「音(音楽)」として再現されないことがあるからです。

一部のオーディオメーカーや評論家、あるいはオーディオマニアは「原音忠実再生」にこだわります。昔は私もそう考えていましたが、最近はデジタルの進歩によりオーディオは「生音をこえる音楽性を生み出す(生よりも良い音で音楽を聞く)ことが可能」だと考えています。従って、CDのデーターがそのままPC(HDD)に取り込まれているか?やDACにそのままのデーターが送り込まれているか?にこだわるのはナンセンスであると考えています。なぜなら「失われた音」は、「最新のデジタル技術」で「復元」が可能だからです。その結果、「録音された生音よりも再生される音が良くなる」ことは充分に考えられます。

話をデモンストレーションの内容に戻しましょう。

PC(HDD)とSACDの比較に続き、UD8004/SpecialでBDを再生し、メディアのフォーマットに関わらずAirbow機器で充分に音楽を楽しめることをデモンストレーションして「Future Sound」の主題は終了します。

最後にシステムを持ち込んだ最高の機器に変えDVD(Double Mellow 付属DVDからStranger)を再生します。Airbow UX1SE/Limited(With Antelope Audio OCX)、Airbow Tera Cryo Limited、Digital Domain B1a(BTL*2)、Focal Scala Utopia

その圧倒的な高音質と素晴らしいボーカルに私は言葉を失います。最高のオーディオには音楽のジャンルも、メディア(ディスク)のフォーマットも、時と場所も関係ありません。そこにあるのは「リアルな感動に出会えた喜び」ただそれだけです。それを聞きながら、私自身も音楽とオーディオに巡り会えた喜びに感謝しながら、短く長い30分の「Future Sound」のデモンストレーションは終了しました。

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