逸品館メルマガ バックナンバー 224

前号のメルマガで、私はオーディオの「本質」について一つの結論に達しつつあると書きました。それは「オーディオは楽器そのもの」という考え方ですが、それを説明したいと思います。この考え方は、音楽に密接に関連しています。そこで楽器と音楽の発達の歴史とオーディオを重ねて説明いたします。

古代の楽器は、構造が単純で音もシンプルでした。古代の弦楽器は、「矢を射る弓」の弦を弾いて音を出すような単純なものであったと考えられます。やがて弦の音を大きくするため「共鳴箱」が加わり、さらに響きを複雑にするため「共鳴弦」が追加され、現代の完成形になりました。バロック時代を経て、演奏が大きなホールで行われるようになると、楽器の発生する音にホールの反射音が加わり響きはさらに複雑になります。このように音楽は様々な「響き」から成り立ち、「響き」が複雑であればあるほど、演奏は多くの情報(感動)を伝えられることがわかります。

これをオーディオに当てはめて考えましょう。オーディオ機器では様々な「歪み」が発生します。真空管増幅回路では、真空管や出力トランスそのものが通過する電気信号で揺さぶられ、物理的に「振動」することで歪みが発生します。この「歪み」は真空管(出力管)に耳を近づければ、真空管や出力トランスから音(音楽)が聞こえることでわかります。トランジスター回路でも真空管ほどではありませんが、音楽信号による共振で「歪み」が発生します。スピーカーはもっと簡単です。ユニットを「音源」エンクロージャーを「共鳴箱」と考えれば、スピーカーの構造が楽器と同じとわかります。ユニットを動かす音楽信号に共鳴して生まれる、スピーカーの「歪み」は楽器が共鳴し発生する「響き」と同じです。つ
まり、オーディオ機器で発生する「歪み(響き)」は、音楽(演奏)そのものなのです。次にリスニングルームを考えましょう。スピーカーの音が部屋に反射して発生する「反射音」は、歪みでしょうか?それとも「音楽」でしょうか?その答えは無響室でスピーカーを鳴らせばわかります。響き(反射)のない部屋で聞くスピーカーは、もこもこして元気がなく音も全く広がらない、実につまらない音です。

では次に人間の耳がどれくらい敏感か考えましょう。指揮者は100人のオーケストラの1人ミスを容易に聞き分けます。演奏者は、自分の楽器の響きを繊細にコントロールし、その響き(共鳴)を巧みに変え心象を音に変換します。観客はその響きの微妙な違いを聞き分けて音楽を感じます。もし、オーディオ機器で発生する「歪み」が音楽信号と無関係なら、測定できない小さな歪みを私たちは聞き分けられないでしょう。しかし、オーディオ機器で発生する「歪み」は「音楽(演奏)」が共鳴して発生しているので、私たちは高性能な音響測定の限界値以下の音の変化を容易に聞き分けられるのです。オーディオで発生する「歪み」を「楽器が増えた」あるいは「演奏者が増えた」と考えれば、オーディオ・アクセサリーの使用やセッティングの微妙な違いで音(音楽)が大きく変わって聞こえる理由を合理的に説明できると思うのです。

この音楽信号の共鳴による「歪み(響き)はアナログ回路だけではなく、でもデジタル回路でも発生します。私たちは真っ白な紙の上の小さなゴミを見つけられますが、まだら模様のカーペットの上のゴミは見つけられません。これと同じ原理で歪み(響き)の少ないデジタル回路で発生する歪みは、アナログ回路で発生する歪みよりも遙かに小さくても再生音に大きな影響を与えるのです。同じように発生する響きの大部分が「非音楽的」なままの装置ではアクセサリーの使用や機器の買い換えによる音の変化はわかりにくく、響きが「音楽的」にチューニングされた機器であればあるほど、アクセサリーや機器「癖」を瞬時に見抜けるのです。

機器やリスニングルームで発生する「響き」を「味方」につけるか?「敵」にまわすか?でオーディオ機器から再生される音楽はがらりと変わります。オーディオ機器で避けられない「歪み(響き)」を「音楽」に変換することができれば、再生音楽は生演奏を超えられます。

オーディオは「響きをどれだけ繊細にコントロールできるか」ですべてが決まります。この時期に開催されるオーディオショウの出音が物語るように、どれほど高価な装置であったとしても「使い手の腕(熱意)」が伴わなければ「良い音」は出せません。オーディオは「楽器」使い手は「奏者」。オーディオの音は、使い手やアドバイザーの「情熱」が決め手です。我流のオーディオも楽しいですが、よりよい音を早く出したいとお考えなら、「正しいアドバイス」が有効です。オーディオは単なる「情報復元装置」ではなく「失われた音と音楽を復元できる高度な復元装置(アナログコンピューター)」です。そのコンピューターのログラマーは、お客様自身です。

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