Rogers E20a
◆ダイアナ・クラール
出来の悪い真空管アンプは「高域に芯」がない。音はふわっと広がるが、音像定位が散漫でぼやけたイメージになる。理由は「出力トランスの精度不足」と「真空管の精度不足」だ。新生E20aは、この点で優れていた「旧型」をさらに上回る。
真空管とは思えないほど、高域が鋭く、芯がシッカリしている。パワフルでしっかりした高域の鮮やかさは素晴らしい。シンバルも厚みや硬さがしっかりと出る。膨らみや濁りを感じない高音と透明感のある中域は、良くできたトランジスターアンプの様に明快だ。その反面、真空管らしい「どしん」とした厚みには少し欠けるように感じるかも知れない。それでもトランジスターとは一線を画する「艶やかさ」と「真空管独自の甘さ」は見事に演出されている。
ピアノの「打鍵感」には芯があり、とてもしっかりしている。こんなに芯のある高域は、「シングルアンプ」では中々出せないはずだ。高域の解像度と明瞭度が良好なため、楽器の分離も優れている。膨らみがちなT3Gの低域も見事にコントロールされ、引き締まって聞こえる。引き締まって明るく明快な音質は、JAZZをフル・スイングさせ音楽を大きく躍動させるエネルギーに満ちている。これであと少しの「雰囲気の濃さ」が醸し出せれば完璧だ。
E20aを逸品館お薦めの真空管アンプUnison
Researchになぞらえるなら、雰囲気抜群のSinfoniaとトランジスターのように正確な音を出すP70があるが、その中間あたりだろうか?「音質」という評価なら、真空管アンプの中でもかなり上位に食い込むのは間違いがない。
新しい世代の歪みの少ない真空管の音。トランジスターアンプの様にHiFiで曖昧さがなく、しかしトランジスターのような硬さがない。そういう、心地よい「いい音」で音楽が鳴る。私がAIRBOW
X-05Ultimateに与えた「HiFi方向からの楽曲へのアプローチ」を見事に生かしてT3Gを鳴らす。こんなアンプはそうざらにはない。トランジスター、真空管という枠を超えて、これは良いアンプだと思う。
◆DJ KAORI’S
本来このような"電子音楽"は、真空管に向かないと考えられていることがあるが、それは違う。楽器用、あるいはスタジオ業務用機器のアンプやエフェクターに積極的に真空管は使われているし、デジタル音響エフェクターにも“真空管の音質効果”が設定されている。なぜなら、真空管の「適度なエコー」がパサつきがちなデジタル電子楽器の音と音の隙間を埋めて音を滑らかにし、楽音の生々しさやアップするからだ。カラオケのエコーのようなイメージだが、真空管を上手く生かすことが出来れば、それよりも遥かに上質な効果が得られる。
例えば、家庭用ビデオなどで収録した場合声は「硬い」。それに対し、FM放送の声が「軟らかく」聞こえるのは、アナウンサーやDJの声に「柔らかさ」と「艶やかさ」を出すため、「エコー・チャンバー」が使われるからだ。さらに楽曲にも「エコー・チャンバー」が使われることがある。FM放送で聞く音楽が、CDで聞くそれとなんだか違って聞こえるのは、そういう理由なのだ。
E20aで聞く最新のPOPSは、真空管の働きでボーカルのデジタルチックな「硬さ」や「トゲトゲしさ」は見事に緩和される。打ち込みが使われるドラムやパーカッションの「トゲトゲしさ」も上手く消え、適度な湿り気が出て生楽器のようにシンセが鳴る。選別球と精度の高いトランスが高い中〜高域のリニアリティーを実現し、ボーカルを透明感が高く、抜けの良い魅力的な音で鳴らす。
この真空管らしい「滑らかさ」、「透明感の高さ(濁りの少なさ)」に加え、E20aの良さは「低音」にも出る。E20aで聞く「ベースライン」の楽器の音は、まるでトランジスターアンプの様にパワフルで押し出しがしっかりし、音程がはっきり聞こえる。その真空管アンプらしくない、引き締まった低音には誰もが驚くはずだ。
E20aはT3Gとの組合せで、アップテンポなダンス・ミュージックのエネルギー感、躍動感を余さず再現してくれる。ダンスの楽しさが体に伝わって、思わず踊り出したくなるほどパワフルなサウンドが味わえた。
◆ベーグ
この快活なアンプにふさわしい楽曲は、「シャンドールベーグが指揮するモーツァルト」をおいて他にない。切れ味鋭く明晰で。高原を吹き抜ける一陣の風のような爽やかなモーツァルト。天童と呼ばれたモーツァルトにふさわしい、天真爛漫な演奏の再現。それが、シャンドールベーグの目差したモーツァルトだ。
E20aは、そのモーツァルトの天賦の才を見事に描きだす。理知的で快活。自然で流れるような旋律。体と心が風に乗って宇宙に舞い上がるような、天衣無縫・無敵のモーツァルト。クリアな空間に描かれる弦楽器。聴き応えのある演奏だ。
オーディオの音は所詮「生音」には叶わないと私は言う。しかし、E20aでシンフォニーを聞くときは、その言葉を覆さなければならないだろう。私は、指揮者に師事してリハーサルから演奏会に立ち会ったことがあるが、「空のホール」で奏でられる演奏は、それを知る人でなければ経験できないほど素晴らしい。細かい音が完璧にホールの隅々まで満たされ、無神経な咳の音や、パンフレットを繰る紙の音、そういう「ノイズ」もまったく無い世界で聞く演奏は、本当に素晴らしい。
それと比べれば、本番は人がたっぷり入って高音が吸音され、人的ノイズがホールのS/Nを著しく悪化させてしまう。スタジオ録音のクラシックは「空のホール」と同じ素晴らしい音で収録されている。ライブ録音も「音の良い位置に設置されたマイク」もしくは「天井吊りマイク」で収録されているディスクでは、人的ノイズは別として「空のホール」と同じ伸びやかな楽音が楽しめる。そういう「良い音のディスク」を良いオーディオで再現すると、生演奏ではめったに味わえない、透明感溢れる演奏が味わえる。それは、オーディオでしか味わえない素晴らしい世界だ。E20aで「ベーグ」を聞くと、そのオーディオ桃源郷の存在が実感できる。
Rogers E40a
◆ダイアナ・クラール
出世魚の「幼魚」のように、ややさっぱりとした感のあったE20aから比べるとE40aの音は、「成魚」だ。しっかりと、脂がのっている。E40aのたっぷり&ネットリとした濃密な空気感でダイアナクラールを聞いていると、E20aの真っ直ぐな音とはまた違った魅力が感じられる。
通常アンプは、出力素子を複数にするとそれぞれのバラツキが原因となって音が濁る事が多い。シングル真空管ファンは、それを嫌ってシングルを選ぶ。しかし、E40aはE20a同様に厳しく選別された出力管と、優れた設計のトランスの良さが出て、パラプッシュにしたことで懸念される「音の濁り」は、全く感じられない。逆にそれどころか出力管を増やしたことによるパワー感の向上が、中低音の「厚み」や「余裕」となって音楽の味わいがさらに深くなる。
味わい深い真空管アンプの代表と言えば、逸品館お薦めのUnison
ResearchならSinfoniaがある。E40aは、そういう味わいも持っているが、Sinfoniaほど「濃厚」ではない。濃密になりすぎない適度な距離感と、適度な節度感を持ってT3Gから流れるJAZZは、まさにダイアナ・クラールらしいコンテンポラリーな現代JAZZのイメージだ。
E40aは、良質なミネラルウォーターが酒や料理の味を引き出すようにほんの少しの「さりげないミネラル分」を音楽に加え、その旨さと深さを見事に引き出す。
◆DJ KAORI’S
E40aで聞くPOPSは、重心の低いE20aよりもさらに楽曲の重心が下がる。低音はさらにパワフルになり、ドラムの歯切れ良さに"タメ"が加わる。サックスの音も厚みを増し、生楽器のように腹にずしんと来る"重さ"まで感じられるほどだ。パーカッションの押し出しや切れ味も一段と力強さを増す。"重低音=バス"は、地を這い、体ごとリズムに引きづり込まれそうになる。
クラブで聞くようなパンチのあるサウンドに飲み込まれてら、もはや動き出す体を止める術はない。低音が体を響かせ、パーカッションが脳天を突き抜ける。爽快な刺激に酔って、空っぽになった心に流れ込むリズムとボーカル。なんて気持ちが良い音なんだろう。もはや真空管とかトランジスターとか、そういう「オーディオ的なこと」はどうでもよくなってしまう。流れ出す音に体を委ねているだけで、心にエネルギーと命が満ち溢れる。
◆ベーグ
E20aでは、ただ走り抜けるように流れたメロディーに明確な緩急が感じられるようになる。走り、止まり、また走る。速度も速くなったり、遅くなったり、E20aで感激したスピード感に明らかな"調子の変化"が表れる。早く大きく、遅く小さく、その変化がしっかりと再現され、楽譜に記された速度記号や、音量変化記号、休符の存在感が明確に感じられるようになる。勢いに任せてやや一本調子に感じられた、E20aで聴く天衣無縫、怖い物知らずのモーツァルトにE40aでは、さらに「情感の深み」が加わるから堪らない。
クラシックはROCKやPOPSに比べ、「穏やかな音楽」だと思われがちだがそれは違う。テンポの良いクラシック演奏は、ダンスミュージックのように体と心を翻弄する。それだけではない。深みのある弦楽器と多数の楽器から構成されるクラシック楽団が本気になれば、電気楽器で奏でられるエネルギーとは比べものにならないスケールの音楽表現が可能となる。歴史が培った「楽器」で奏でられる「クラシック」の深い味わい。E40aは、そういうクラシックの本当の素晴らしさを見事に再現する希有なアンプだ。

Triode TRV−845SE
◆ダイアナ・クラール
最初、真空管保護ネットをつけた状態でこの曲を聴いてみた。大がかりな真空管、重量のあるボディーから爆発的なエネルギー感と開放感を想像したのだが、出て来た音は直前に効いたE40aと比べて大きな差がなく、ちょっと肩すかしを食らった。しかし、Triodeの薦めで保護ネットを外してみるとどうだろう?音がほぐれ、空間に楽音がストレスなく広がるようになった。この違いは、かなり大きい!
※保護ネットを外した状態での使用は危険なので、十分安全に注意すべき(当然自己責任)だが、これだけ音が良くなるなら、保護ネットはできれば外したい。
私が聞いたヴィンテッジ845は、低域がしっかりして高域に芯があった。しかし、TRV-845SEは記憶の845とは少なからず違っている。音の細やかさは、充分に水準以上で納得できるが、大型球にも関わらず低音は軟らかく、ふわっとしていて、求める“押し出し感や塊感”が感じられない。それはTRV-845SEに使われている中国製の845の影響が大きいと想像する。Triodeに装着される845を外して指で弾くと、はたして「ジャンジャン」という雑味のある音で"鳴いた"。
真空管は一種のエコー発生器のように、球の“鳴き”が再生音に乗ることで特徴ある音が出る。真空管には、カソードがフィラメントで加熱される金属板で構成される「傍熱管」と、845のようにカソードがフィラメントを兼ねる「直熱管」がある。傍熱管のカソード板は強度が高く“鳴き”にくい。しかし、845のようにカソードが細いフィラメントで構成される直熱管では、フィラメントをしっかりと保持しないと音声が通過する反動で、フィラメントは過大に“鳴いて”しまう。中国製の845はビンテッジの球よりも作りが“甘く”、それが高域の雑味となっているのだろう。低域の緩さも、フィラメントの保持力不足が原因ではないかと邪推する。
しかし、低域の緩さ、高域の僅かな粗さを補って余りあるほどTRV-845SEの中域は魅力的だ。シングルらしく、音の出始めがスッキリとしてもたつきがない。嫌な濁りや付帯音もほとんど感じられない。大型球らしくボーカルには厚みがあり、ピアノの音も大型楽器らしい厚みと重さが出ている。弦楽器も分離感の心地よい、それでいて暖かい音で鳴る。845SEと同じ直熱3曲管シングルアンプとしてTriodeにはTRV-A300SEがあるが、TRV-845SEはA300SEの音をさらにふくよかにしたイメージだと考えて頂ければ、その音をほぼ間違いなく想像できるだろう。TRV-845SEが聞かせる、ボーカルの色気は魅力的だと思う。
◆DJ KAORI’S
この曲に関しては、TRV-845SE持つ「緩さ」が裏目に出る。低音は、膨らんでやや遅れてしまう。高音も線が細く、ややざらついて感じられる。ドラムは、ティンパニーのようにウエットで膨らむ。パーカッションは、明らかに切れ味不足。しかし、それに比べてボーカルだけがやけに肉厚で、伴奏とボーカルのハーモニーがマッチせず、伴奏がボーカルより遅れて、どたばたした演奏に聞こえてしまう。
◆ベーグ
この曲ではTRV-845SEの高域の雑味は、ほとんど気にならない。なぜなら、弦を擦って音を出す「バイオリン」のような弦楽器の高音は、もともと「ザラザラ(ノコギリ状の波形)」しているから、アンプがそれに多少「ザラザラ」を乗っけても、人間は違和感を感じないからだ。
TRV-845SEで聞くモーツァルトは、中域が僅かに膨らみ肉付きがよい。演奏のテンポ(速度感)は、E20aが最も早く、E40aがそれに続く。TRV-845SEは試聴した3台の中では、もっとゆったりしていてちょっと違う曲を聴いているイメージすら覚えるほどだ。拍手も「掌の肉の厚み」がきちんと感じられる音で鳴る。
演奏を通じて、「柔らかさ」と「厚み」感が強く感じられる。そう言う音を「真空管」に求めている方には、ベストマッチするだろうと思うが、個人的にはややレトロ感が強い印象を持った。しかし、TRV-845SEの音を好まれるなら、E20a/E40aの音は逆に現代的すぎると感じられるだろう。好みの分かれる所だ。