TAD E1 詳細と音質インプレッション

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E 1の概要

TADという名前をご存じでしょうか? Technical Audio Device(TAD)はPioneerの子会社で業務用のスピーカーなどを中心に手がけている技術集団で、古くはExclusiveなどにTADのユニットが使われていましたが、業務用が主でコンシューマ(民生)市場に商品がほとんど投入されなかったため、知る人ぞ知るブランドだったと思います。しかし、2007年にReference 1(スピーカー)が発売されたことでその名は一気に知れ渡りました。

TADがコンシューマ市場へのデビュー作として全力で作り上げたReference 1の発表会は、東京にあるPioneerの本社で行われ私も参加させて頂きました。しかし、そこで聴いた音は残念ながらその価格、スペックとはかけ離れたもので、到底触手が動かされる魅力は感じられませんでした。大きく無機質の製品に触れた感覚が残ったことを覚えています。このReference 1は大きく試聴機の台数も非常に少なかったため販売店に試聴機が回ることがなく、私が国内でReference 1を聞けたのはPioneerの本社とハイエンドショウ東京の某出版社のブースの2箇所だけでした。残念なことにどちらの印象も似たようなもので「やはり国産は駄目だ」とがっかりしたことを覚えています。しかし、翌年ラスベガスで開催されたWinter CESに出向いた時、そこに設けられたTADブースで聞いたReference 1は見違えるような良い音で鳴っていて驚かされました。ただし、その時に使われていた音源は業務用の1インチオープンリール・レコーダーという、家庭では到底望めない高音質なソースだったので「CESでは例外的によい音で鳴っていて、やはり家庭では実力が発揮でないスピーカー」という印象が覆るには至りませんでした。

このReference 1のために開発されたのが、可能な限り点に近い音源から音を出すことで位相の乱れを極限まで抑えた特別な同軸ユニット「CST」ですが、これまで多く発売されてきた同軸ユニットとの違いは、CSTが250Hz-100kHzという非常に広い周波数レンジを一つのユニットでカバーしたことです。これほど広帯域を再現出来る単一ユニットが作られたのは、CSTが世界で初めてです。その実現のためベリリウムやマグネシウム、ネオジウムマグネットという新素材が惜しみなく投入された結果CSTは恐ろしいほど高価なユニットとなり、Reference 1もまた庶民には遠く手の届かない高額なスピーカーでした。

このような経緯からあまり期待していなかったTAD製品ですが、CSTユニットは材質を変え量産することでその高性能を残しながら大幅にコストダウンされ、Pioneerから発売されたS-EX Seriesでブレイクし、オーディオ・ファンに広く知られるようになったのはご存じの通りです。

Reference 1の発売後、しばらく新製品を発売していなかったTADですが、2009年にReference 1の弟分CR-1と超弩級パワーアンプM600を発売したのを皮切りに、CD/SACDプレーヤーD600、デジタルプリアンプC2000、デジタルパワーアンプM2500/M4300と新製品を矢継ぎ早に発表し、今年年末には先行発売されているM600と対になるプリアンプC600が発売予定に加わるなど怒濤の新製品ラッシュ攻勢が始まっています。

関西に数少ないTADの認定店(Authorized Dealer)である逸品館には新製品のすべてが持ち込まれ私はそれを聞くことができましたが、その中で最初に私のTADへの芳しくないイメージを変えさせたのがD600(3号館展示中)です。このCD/SACDプレーヤーはそれまでのデジタルプレーヤーでは感じることのなかった揺るぎない重低音とレコードのように厚みのある中域、デジタルでしか実現できない精密な高域が兼ね備わった素晴らしいプレーヤーでした。

D600を聞いたことで俄TADファンになった私は、業務用デスクトップモニターTSM-2201LRを取り寄せて聞いてみました。これは予想を遙かに超える素晴らしいスピーカーで、低域から高域まで位相がビシッと揃いモニターに必要な音がすべて精密に聞き取れました。このサイズと価格でそれを実現できるのは世界広しと言えどもTADしかないと確信させる凄い音質です。しかし残念なことにこのTSM-2201LRは国内オーディオ市場でほとんどお目にかかることがありませんが、そこからは製品の実力ではなくスペックや価格でしか製品を評価できないメディアと評論家の至らなさ、それに迎合することでしか商売できないオーディオ専門店が販売体勢を固めている日本のオーディオ市場の歪さを実感させられます。同時に音楽を聞く装置でありながら、機械いじりが先行しているオーディオという趣味のレベルの低さが嘆かれます(無論、逸品館のお客様は例外です)。音楽を聞くためのオーディオ機器の価値は、価格やスペックでは計りきれない高尚なもののはずです。

それはともかく、TSM-2001LRの試聴に前後してTADのアンプM600やC2000/M2500/M4300を聞いたのですが、CDプレーヤーやスピーカーの良さに相反してアンプにはあまり良い印象を持てませんでした。ところが2011年8月に行ったTAD CR-1とD600/C2000/M2500/M4300の試聴会でこの印象はまたしても大きく覆ります。この試聴会で私は始めてTADフルシステムの真の実力を知らされました。この試聴会の音は凄まじく、参加頂いたTAD AmbassadorのMr.MIYAGAWAの頬も緩みっぱなしでした。もちろん、それまでに聞いたどの試聴会の音よりも遙かに素晴らしかったのは言うまでもありません。世界で唯一、真っ正面から極められたオーディオ技術が音楽芸術の領域まで達した瞬間の証人になったとさえ思ったほどです。

近畿地方では、京都河原町にあるシネコン(MOVIX京都)にTADのフルシステムが入っているシアター(MOVIX京都はシアターが12個あります。TADが入っているシアター10です。)があります。そこで私は「おくりびと」を見て、その音質に驚かされました。私が今まで聞いた限りでは、日本で最高の音質のシアターに間違いありません。3号館で聞けたTADフルシステムの音は、このシアターでその片鱗を味わって頂けると思います。


前置きが非常に長くなってしまいましたが、それでは私が期待するTADの新型スピーカーE1をご紹介いたしましょう。

 

【TAD-E1の主な仕様】 メーカー希望小売価格 100万円(税別/1台) (この製品のご注文はこちらからどうぞ生産完了

型式

3ウェイ位相反転式フロア型

スピーカー構成 3ウェイ方式
ウーファー 18 cmコーン型×2
ミッドレンジ / トゥイーター 同軸14 cmコーン型 / 3.5 cmドーム型
再生周波数帯域 28 Hz〜100 kHz
クロスオーバー周波数 250 Hz、2 kHz
出力音圧レベル 88 dB(2.83 V・1 m)
適合アンプ出力 50 〜 250 W
公称インピーダンス 4 Ω
ユニット極性 低域(+)、中域(+)、高域(+)
外形寸法 1 162 mm (H) x 334 mm (W) x 512 mm (D)
質量 54 kg
付属品 スパイクコーンx 3 pcs
転倒防止スパイク x 2 pcs
スパイク受け x 3 pcs
ショートケーブル(シングルワイヤ用ショートタイプ) x 1 pcs
ショートケーブル(シングルワイヤ用ロングタイプ) x 1 pcs
クリーニングクロス

TAD E1にはReference1から引き継がれた数々の特徴と、E1で新たに投入された新技術が詰まっています。

【TAD-E1の主な特長】

「なめらかな音」と「自然な音の広がり」を再現する同軸スピーカーユニット「CSTドライバー」が搭載されているのはReference 1 、CR-1やS-EX Seriesと同じですが、S-EX Seriesと違いE1のツィーターはReference 1やCR-1と同じ独自の蒸着法で加工したベリリウム振動板が使われています。ミッドレンジには軽量で高内部損失のマグネシウム振動板が採用されるのは、すべてのモデルに共通です。

 CSTユニット

 E1に搭載されたCSTユニットの分解図

ウーファーには、歪みが少なく高いリニアリティの新開発振動板「Multi-layered Aramid Composite Shell Diaphragm」が採用されてますが、E1では軽量で高剛性なアラミド繊維の織布と不織布を何層にもラミネートした新開発の振動板が使われています。また、センターキャップとコーンをシェル状(殻形状)に一体化することで、豊かな低音再生とクリアな中低域再生が追求されています。ウーファーの磁気回路には、強力なネオジムマグネットを使用したTポール型磁気回路が使われ小さな振幅から大きな振幅まで均一な駆動力を実現します。

 ウーファーユニット

 ウーファーユニット分解図

 キャビネットには、高剛性の樺(バーチ)合板を骨組みに使用し、高内部損失のMDF材と組み合わせることで、高い強度と低い共振を実現するSILENTエンクロージャーが採用されています。さらにキャビネット後部をティアドロップ形状にすることで、音の回り込みをコントロールして音場の再現性を高めるとともに、キャビネットの不要共振を低減しています。エンクロージャー内部の定在波解析を行い、最適な吸音材を選定して効果的に配置することで、音像・音場に悪い影響を及ぼす内部定在波が徹底的に排除されています。

 エンクロージャー内部の音圧影響を排除するために、 剛性の高いアルミベースにネットワークフィルターをマウントしてベース部に格納したISO(Isolated)マウントネットワークフィルターを採用し、ネットワークに与えるエンクロージャー内の内部音圧の影響を排除し、クリアな低音を再生します。

 ISO(Isolated)マウントネットZワークフィルター部

 ターミナルはバイワイヤリング対応


E 1 音質インプレッション

まず、お断りしておかなければいけないのは私が聞いた"E1”はプロトタイプ(最終試作品)でプロダクトモデル(市販品)ではないと言うことです。限りなく市販品に近い状態とは言え、CSTユニット保護グリルの共振が過大でせっかくの高域の位相が乱れCSTらしいフォーカスの決まった抜けの良い音が聞けませんでした。

そこでTAD担当者の許可を得てAETのRE-HEXをグリルの中央に貼り付けると共振がきれいに消えて、E1本来のサウンドが出始めました。市販までにはグリルの形状と材質が再検討され、私が聞けたE1本来の音が実現しているはずです。

 写真の保護グリルは発売までに改良される予定です。

私がE1を聞いたのは、Pioneerが東京で行った2011年秋の新製品発表会(最上段写真左)と、逸品館3号館試聴室で聞いた2回です。組み合わせたのはどちらもプレーヤーがD600、プリアンプがC2000、パワーアンプにM4300を使ったバイアンプ構成の同じシステムです。

新製品発表会で初めてE1を聞いた時は、3号館の試聴会で聞いて驚かされたCR-1よりも良い意味ですこしフレンドリーで鳴らし易そうな印象でしたが、CSTらしいフォーカスの良さと音の繋がりの癖のなさ、中高域の緻密さには驚くべきものが感じられました会場が叙々苑の一室であったにも関わらず、招かれたPioneer販売店の誰もが興奮と驚きを隠せない「すぐにわかる高音質」が実現していたのはさすがです。私は30人近く座っている中央付近で聞いたのですが、その音はまるで障害物が存在しないような「目を閉じれば録音現場が見えるような素晴らしい定位の良さ」とCR-1譲りの「一切の違和感が感じられない精密さ」が両立した素晴らしいものでした。

試聴会での印象が抜群だったので一刻も早くE1の実力を知りたくなり、TADに無理を言って3号館でE1を聞ける機会を作って頂きました。届けられたE1は3号館で開催したCR-1の試聴会とできる限り条件を同じに鳴らしました(最上段写真左)。記憶に残るCR-1との比較では同一のユニットが使われていることもあり、CSTの良さがほぼそのまま継承され、フォーカスが完全な決まった定位に引き込まれました。しかし、やはりコストの問題なのか?CR-1に比べると超高域の解像度が若干低い印象を持ちました。最高域の伸びやかさとクリアさは、CR-1がE1を超えていたように思います。逆に中高域のエネルギーが低域を超え常にどこかで低域不足を感じさせられたCR-1に対し、E1は十分な中低域の量感と質感が与えられエネルギーバランスがバッチリ決まっています。Pioneerの試聴会でも帯域バランスが良かったからこそ、聞いた人が音ではなく「音楽再現性能」に驚かされた結果感動が生まれたのだと思います。

TADフルシステムで聞くE1は細かく癖がなく、恐ろしくリアルです。同じ3号館の試聴室にあるPMC BB5との比較では、E1の音は少し乾いて感じられますが「スピーカーが作り出す余計な響き」はBB5よりも少なく、E1がより自然でリアルに聞こえます。BB5は単体で聞くと時に生よりも生々しいと感じられるほどの実在感を持っていますが、E1を聞いた後ではそれが「作られたもの」であると感じられるのです(BB5だけ聞いているとただただ自然な音です)。

次にB&W 802Diamondと比べてみました。アンプにTADのフルシステムを使った影響も大きいと思いますが、あれほど物理特性に優れ色づけが少ないはずの(すくなくとも今度の802Diamondの音には自信があった)802DiamondがE1の前では「調律が狂ったピアノのよう」にバラバラに聞こえてしまうではありませんか。BB5と言い802Diamondと言い、それぞれを単体で聞いている限りでは色づけが感じられず、素晴らしくいい音なのにE1と比べるとこれほどユニットの音色やネットワーク付近の音の繋がりに違和感が感じられるなんて、思いもよらなかったことです。これは、E1を褒めるほかありません。

しかし、E1にも弱点はあります。それはCR-1と同じく(多分R-1も同じ)「精密すぎる」ということです。例えば路面に一切凸凹がないサーキットを走らせればそれ専用に作られた「レーシングカー」は、市販車を寄せ付けない素晴らしい能力を発揮します。しかし、レーシングカーで市街地は走れません。それと同じ事がR-1(Reference 1)、CR-1、E1にも当てはまると思います。それぞれのスピーカーを車にたとえるなら、R-1はF1マシン。CR-1はそれより少し優しくてGTマシン。E1はレーシングカーとスポーツカーのぎりぎりの所にあります。国産車で言えばHONDAのTYPE-Rのような存在かも知れません。

能力を上手く発揮させることができればE1は価格を遙かに超える素晴らしい音を聞かせてくれます。その音はTAD以外どのメーカーも実現し得なかった「NONカラーレーション」を極めた自然で違和感のない緻密な音です。しかし、下手なアンプを組み合わせれば「システムの持つ固有の歪み(固有の味付け)」が聞こえるだけの駄スピーカーに評価を落としかねません。だからE1を始めとするTADのスピーカーは、できればTADのフルシステムで聞いて欲しいと思うのです。もしかするとPioneerでの新製品発表会と3号館で開催した試聴室以外で「TADの本当の音」を聞けた方は、いらっしゃらないのではないのではないでしょうか。

今回の試聴にご協力頂いたTADの皆様が本当に「熱い魂」を持ってTAD製品を作っていらっしゃることは、仕事での関わりのみならず製品を通じてもしっかりと伝わります。日本人が世界に誇るこだわりの技術と情熱が融合し昇華したとき、とてつもない芸術品が生まれます。その一つがTADです。日本が世界に誇れる工業製品TADは、金儲けのために作られたおちゃらけた高級オーディオとは次元が違います。それにはTADの原点が現場で厳しく評価される、プロ用機器だという事が大きく影響しているはずです。TADの音には命がけの真剣勝負の厳しさと、それを乗り越えたすがすがしい「静けさ(無の境地)」が聞こえます。

もし今、超高級オーディオ一式の購入をお考えなら、日本という国の技術力の本気を味わいたいとお考えなら、迷わずTADのフルシステムをお薦めいたします。売り手としても熱くなれる、こういう製品を私は待っていたのです。依頼があれば、私が全国どこ得でも足を運び「私が聴いた音」に調整させて頂きたいと思わせるほど素晴らしい製品です。オーディオを極めるために、一度は聴いておくべき音です。

2011年10月 逸品館代表 清原裕介

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