タイタニック(CD)
PMC
TB2iと価格はほぼ同じだが、サイズが大きく重量もある。ウーファーには、凄くお金がかかっている。二つを並べてどうぞ!と言われれば見た目豪華なSCM19に心が動かない人はいないだろう。
そこでこの2機種を実際に聞き比べてみた。
タイタニックのソフトを連続で6時間ほど演奏した後、試聴を開始する。スピーカーの前に陣取って一音が出た瞬間に高域の繊細さ、切れ味、透明感はTB2iの方が優れていることがわかる。バッフルの幅が広いためか、あるいはツィーター周辺の構造的に反射が多いためなのか、SCM19の高音部はTB2iほど開放的に広がらず、バッフルから押されるように前に出てくる。圧迫感を覚えるが、中域の厚み感押し出し感に優れるSCM19のウーファーとのマッチングは悪くない。
個人的な好みでは、やはりストレスの少ない(その分厚みが薄い)TB2iの中高域に魅力を感じるが、聞こうとする楽器の種類や中低域をよりしっかりと聞きたいならSCM19は、決して悪くはない選択だ。
低域に注意を集中して比較する。最低域の量感では、サイズは小さいがトランスミッションラインを採用しているTB2iがSCM19を上回る。ただ、SCM19の大型マグネットをしっかりドライブするためには、今回組み合わせたPS8500/Specialは、力が足りないのかもしれないし、エンクロージャーも密閉方式なので、エアーダンピングの影響でウーファーも動きが渋いはずだ。SCM19は、TB2iよりもしっかりとしたアンプで鳴らしたい。そうするとそのマグネットの強さやエンクロージャー剛性の高さが生きてくるはずだ。ウーファーがスムースに動くようになるとスピーカーの鳴りも開放的になり、音色も明るくなるだろう。
この価格帯を超える中高域の透明感を実現したTB2iに対し、中低域の厚み感を達成したSCM19。鮮やかなTB2iに対し、じわりと渋みのあるSCM19。同じモニタースピーカーでも、音質傾向はハッキリと異なっている。
ヒラリー・ハーン(バイオリン)
タイタニックでも同様に感じたがSCM19の中高域は、TB2iのそれよりも穏やかだ。バイオリンの弦は、少しミュートがかかったような柔らかさが出る。コンサート会場が人で満たされると、吸音効果が高くなって弦の透明感や開放感が減じられれることがあるが、そういう音に近い。しかし、高域が穏やかに減衰することで中域の厚みは増す。
SCM19では、TB2iで聞くよりもやや小さく、デッドなホールで演奏しているように聞こえる。高域は穏やかなので、耳障りな音はほとんど聞こえない。駒のカタカタ音も耳を澄まさないと聞こえない。すべてがあからさまになったTB2iとは、そこが違う。
TB2iでは、ヒラリー・ハーンが勢いよくバイオリンの音をポーンと空間に放つように聞こえたが、SCM19では一音一音をしっかりと愛でながら引き込んでいるように聞こえる。演奏が少し大人びて温和しい印象へと変化する。1曲目は、エネルギー感と開放感に溢れるTB2iが魅力的だが、2曲目はじっくりと聞けるSCM19の味わいが良かった。
ソフトに応じて、曲に応じて、スピーカーを換えて味わう。どちらが正しく、どちらが正しくないのだろう?昔は、そんな風に考えていたが、今は気にしない。同じ演奏が、聞く位置で印象が変わるように、同じソフトを聞き返してもその日の気分で印象が変わるように、流れてくる音楽から受け取れる心象は、その時々で同じでなくていい。どんなに優秀な奏者でも指揮者でも、同じ生演奏を2度繰り返すことはできない。音楽との出会いは、まさに一期一会。でもスピーカーを変え、アンプを変えても「ヒラリー・ハーン」が素晴らしい奏者だという思いは揺らがなければ、それで良いと思うからだ。
オーディオセットの音が変わっても、演奏から感じ取れる「彼女の人となり」の印象が大きく変わることはない。不思議だけれど、事実である。きっと人間は、オーディオセットの音質の小さな違いなどものともせず、本質を受け取れる能力を持って生まれているのだろう。
ジルベルト(ボサ・ノヴァ)
高域と低域がシュン!と伸びて帯域バランスがフラットなTB2iに比べSCM19は、上端と下限がやや丸みを帯びた「かまぼこ形」のバランスだ。どちらの音が生に近いか?と問われれば迷わずTB2iと答えるが、SCM19でデフォルメされたこの演奏も悪くない。
帯域が狭くなるので、良い意味での「レトロ」な雰囲気が感じられるようになる。TB2iのように音を分析はできないが、雰囲気はきちんと伝わる。ゆったりとして心が和むような音。昔、JAZZ喫茶で鳴っていたレコードのような、そういう味わいを持っている。
声は、甘く太く、サックスも甘く太い。シンバルも厚みがあって、ふくよかな音になる。ギターは、ガット弦の柔らかさとちょっと曇った感じが出る。ピアノは、フル・コンサートサイズの大型ピアノではなく、小さめのグランドピアノがポロンポロンと鳴っている様子になる。アストラッド・ジルベルトは、唇が少し厚くなり唇のしめった感じが良く出てくる。
あっけらかんと明るくノリの良かったTB2iで聞くこの曲も良かったが、スモールライブハウスでカジュアルに演奏されているようなイメージになるSCM19で聞くこの曲の味わいもまた捨てがたい。プレーヤーが音と戯れているように鳴る厚みのあるサックスの音をいつまでも聞いていたくなった。
ホルショフスキー(ピアノ)
ピアノのサイズがやはり小さく感じられるが、それは低音が足りないからだろう。もちろんこのサイズの密閉型スピーカーとしては、十分な量は確保されているが、最低限に留まっている。
先にも述べたようにAIRBOW
PS8500/Specialでは、やはりこの重いウーファーをドライブしきれないようだ。このスピーカーをより良く鳴らすためには、低域の限界を以下に広げられるか?それを可能にできるアンプ選びがキーポイントになるだろう。
中域〜高域は、非常に素直で嫌な付帯音はない。やや開放感が足りないが、それもアンプのスピーカー駆動力が足りないせいではないだろうか?ピアノの音色の変化や奏者のタッチの変化は、とてもリニアに再現される。同じイギリスのモニタースピーカーB&Wが強い癖を持っているのとは対照的だ。
TB2iは、現代的。SCM19は、古典的にこのソフトを再生してくれた。
チャイコフスキー4番(交響曲)
導入部の金管の音には、しっかりとした厚みがある。高域も伸びているが、中域の厚みがあるのでうるさく感じられないのがSCM19の美点だと思う。続く木管の音は、愁いを帯びてもの悲しい。弦楽部の少し悲しい感じが上手く出ている。
再生周波数帯域が狭いので、このソフトは不得意なのでは?との予想を覆して、TB2iよりもより深みのある音が出る。他のソフトでは感じられた「SCM19の癖(持ち味)」が、このソフトでは全く感じられない。不思議だけれど、交響曲がこのスピーカーには最も似合っている。スケール感が小さくなるので「原寸大」ではないが、厳密に「スケールダウン」された「完全なミニチュア」として交響曲が再現される。楽器の位置関係、副旋律の構造、見事な描写能力だ。楽音の絡み合い、音場の立体的変化、そういったものが正に「生々しく」再現される。
聞いていてとても楽しい。ATCがこれほど上手くクラシック(交響曲は特に)を再現できるとは、今まで気付かなかった。記憶の中にあるスピーカーでは、BBCの小型モニターとして長く愛用され続けたLS3/5Aの持つ交響曲の鳴り方のイメージとSCM19は非常に近かった。この知的・繊細さが、イギリス製スピーカーの一つの持ち味なのだろうか?