プリメインアンプ
QUAD
2 Classic Integrated \850,000(税別)
1000万円のスピーカーを鳴らすのに85万円の真空プリメインアンプでは、やや頼りないとも感じたがとりあえずスピーカーの素性を探る意味も含め、カーペンターズの7曲目から本格的な試聴を開始した。

冒頭部分のチャイムの音が軽やかにひずみなくきれいに広がる。透明感、繊細館は抜群でエコーも長く美しい。その上、真空管アンプでならしているにもかかわらず、高域の芯が非常にしっかりしていることに驚かされた。アンプがいいのだろうか?しかし、この音はそれだけでは説明がつかないほどの良さがある。外側は透明で柔らかいのに、中には揺るがない芯がある。最高の状態でゆであがった、アルデンテ・スパゲッティーのようなおいしい音だ。
中音はいかにもFocalらしい、輪郭と骨格がはっきりして中身のぎゅっと詰まった音だ。
低域は、このスピーカー最大の特徴はその低域にあるのだが、はっきりと軽い。こんなに小さな真空管アンプでならしているのに、大口径で重そうなウーファーが軽々と動く。まるで高能率スピーカーの軽い紙コーンウーファーのようなさわやかな音。現代的な高強度ウーファーとは思えない、音離れのよい圧迫感のない音。ユニットが軽くスムースに動き出し、そしてすっと止まり、余計な響きが後を引かない。本当にこんな小さな真空管アンプで鳴らしているのだろうか?疑問を感じずにはいられない音が、目の前の巨大なスピーカーから出ている。これは、今までにない経験だ。
曲を10曲目に変える。
出だしのドラムは、まるで小型スピーカー鳴らしているかのように軽やかだが、再生周波数帯域の低さは大型スピーカーのものだ。小型スピーカーに良質なサブウーファーを加えて構成する、よくできた3Dすぴーカーシステムのような良さを感じるが、それよりもさらに音は軽く、余計な圧迫感はない。それでいながら、体に空気の震えが伝わってくる。こんな低域を聞くのは、マッキントッシュの大型スピーカーを300Bシングルアンプで鳴らして以来かもしれない。いや、きっとそれ以上だろう。
中高域は、やはりやや硬質な感じだが決していやな音ではない。カレンの声は暖かく力強く、伴奏よりも一歩前に出て心地よい。
基本的な中高域の音は、Utopia Scalaのそれと同じだが、繊細さひずみ感の少なさ、つながりの良さでそれを大きくしのぐようだ。このあたりは、EMウーファーにあわせてチューニングし直された「ネットワークの改良」が効いているのだろう。こんなに華奢なアンプで、200KG近い大型アンプがここまでストレスなく慣らせるとは、効いてみなければ信じられないだろう。

ディスクをノラジョーンズに変える。
3曲から聞き始めたが、ウッドベースはウッドベースらしく軽く弾み、エレキベースのような重い音にならないことに感心させられる。さらに普通のスピーカーでは、ベースの響きが後に残るがStellaにはそれが全く感じられない。ウーファーがスムースに動き、ピタリと止まる。まるで慣性力が消えてしまったかのようだ。ひずみが非常に少なく、リニアな音。アンプの出力信号をそのまま、精度の高い「音波」に変換しているように思える。
ベースは生音のように柔らかいのに切れがあり、軽いのに太い。ピアノはアタックが軽く立ち上がるのに、厚みがある。直接音(打鍵音)と間接音(ピアノの響き)のバランスに優れ、ころころと転がるようなイメージでピアノの音が鳴る。
ボーカルは伴奏と見事に分離するが、少し硬質でもう少し色気がほしくなる。響きな少ないため、付帯音が整理されすぎたイメージがこの曲では少しマイナスだ。Stellaをもっと鳴らし込み、エージングでキャビネットがユニットと呼応して心地よく響くようになったとき、このディスクをもう一度聞いてみたい。いったいどれほどの音が出るのだろう?
そのまま曲は4曲目に進み、試聴を続ける
ギターの音、ドラムの音は明瞭でとてもリアル。特に高次倍音が美しく再現されるのが特徴的だ。この中高域の美しさも独特だが、それはたぶんネットワークの改良に加え、EMウーファーによる濁りのない低音も効いているはずだ。
アンプがそろそろ暖まってきたのか、カーペンターズを聞いていたときよりもボーカルの表情が豊かに感じられる。
じっくりと聞き込めば聞き込むほど、出てくる音数の多さが半端ではないことに驚かされる。今までの経験では、こういう音数は「チャンネルデバイダーを使ったマルチアンプ駆動のスピーカー」でしか聞いたことがない。そんな驚くべき豊富な音数と情報量が、真空管のプリメインアンプで出る。これはいったい、どういう理屈なのだろう?

カーペンターズ、ノラジョーンズのディスクを聞いた感じから、バイオリンの高域がもっとハードでクリアに再現されると想像していたが、その予想は完全に外れてしまった。高域は全く暴れずに、おとなしく鳴る。刺激が不足して、やや物足りないほどだ。
このソフトはマルチマイク録音とミキシングのせいで空間情報がかなり乱れている。普通のスピーカーでは、その異なる響きが渾然一体となり「空間が濁っている」と感じられるのだが、Stellaはちょっと違う。複数のマイクがとらえた楽器そのものの音と、マイクが設置された位置の空間情報(マイクが拾ったホールの響き)が分離して聞き取れるほどの高い解像度でコンチェルトが鳴る。
まるでOTLの真空管アンプでスピーカーを鳴らしているような音だ。もちろん、OTLの真空管がどれほどの音でスピーカーを鳴らすか?それは、その音を聞いた人にしかわからないのだけれど、とにかく凄い音が出る。
バイオリン、チェロ、コントラバス。ピッコロとフルート。クラリネットとファゴット。例を挙げればきりがないが、構造が同じでサイズの違う楽器が交響曲には多用される。それはハーモニーに厚みを与えるためだ。しかし、それぞれの楽器の倍音構造が完全に分離して再現されないと、音が団子になりフォルテで楽音がヒステリック聞こえてしまう。Stellaは、それをきちんと描き分けハーモニーでの音の重なりを見事に美しく再現する。
また不要な響きが少ないので、休符部分でピタリと音が止まり、聴感上の静けさに優れS/N感が非常に高い。まるでエンクロージャーを持たないQUAD ESLを聞いているようだ。
QUAD
2 Classic Integratedで3枚のディスクを聴き終えて感じるのは、Stellaが通常のダイナミック型スピーカーとは一線を画する特殊なほど凄いスピーカーと言えることだ。

Accuphase
C3800 ・ Accuphase M6000



アンプをAccuphaseに変えて試聴を続ける。
最初にお断りしておかなければならないが、私はAccuphaseの音があまり好きではない。スペックやデーターには優れるのかもしれないが、だいたいのモデルにおいて音が堅く音楽表現が苦手に思えるからだ。この意見には、生演奏をよく聴く多くの友人も同じ意見だ。そして彼らのほとんどは、過去にAccuphaseを使い、今は使っていない。もちろん、例外はオーディオにはつきものだから、この意見は絶対ではない。

Accuphaseが嫌いな私を唸らせる音をStellaは出す。本当にこれがAccuphaseのアンプから出る音なのか?
確かに高域の金属的な堅さと、アタックの立ち上がり部分に付帯音がつき、そのため広域に独特の色がついて感じられるのは、まさにAccuphaseの音そのものの持ち味だ。ボーカルの高域に付帯音が感じられるのも、やはりAccuphaseの特徴に違いないが、Accuphaseで鳴らすStellaの音を聞いていると、そんな「些細なこと(普段はそれが我慢ならないのだが)」は、どうでもよくなってくるから不思議だ。
7曲目を聞いているが、高域の驚くべき分解能の高さ、左右への広がり感、きめ細やかな心地よさは、最上級のHi-Endオーディオでしか到達し得ない世界のそれだ。
QUADでは聞こえなかった、テープヒスのノイズ、カレンの唇から出るリップノイズまでもが、まるで目に見えるように細かくはっきりと再現される。しかも、それが分析的にならずきちんとした音楽表現にさえ感じられる。
8曲目に進む。
バックコーラスの子供たちの一人一人が見えるように錯覚するほど解像度が高い。もちろんTAD D600のすごさもあるのだろうが、Accuphaseで音楽を聴くのが、こんなに楽しいと感じたのはこれが初めての経験だ。

QUAD 2 Classicに比べて、ベースの音に太さと厚みが出る。ふわふわのあんこが、ぎゅーっと詰まったイメージへの変化が聞き取れる。しかし、QUADに比べると前後方向への音場の広さが浅く、左右への広がりも小さい。塊感、中身の詰まった感じはAccuphaseがQUADを大きく上回るが、ストレスのない音の広がりではQUADがAccuphaseを上回る。
真空管とトランジスターという方式の違い、プリメインアンプとセパレートアンプという構造の違いが音に出る。回路を複雑にしすぎると、どうしても細かい部分で位相が整わず、その結果音の広がりが阻害されることが多い。再生系は、あまり複雑でない方が良い。つまり、回路的にはセパレートよりもプリメインアンプの方が自然な音を出しやすいのだ。しかし、プリメインアンプでクォリティーを上げるのは容易ではない。その点でセパレートアンプやマルチアンプシステムのように複雑ではなく、簡単なプリメインアンプで鳴らしても十二分な情報量を再現するStellaはすばらしいと思う。
Accuphaseで鳴らすStellaは、音のぎゅっと詰まった感じ、低音の太さと厚み、パワー感に優れている。弾力的で暖かい音。有機的なこの感じは、どちらかといえば冷たく堅いという私のAccuphaseのイメージと異なっている。
音場の透明感の高さ、ストレスのない自然な広がり感では、QUADがAccuphaseを上回ったが、全体的な密度の高さが生きてトータルのイメージではAccuphaseがQUADを数段上回る。もちろん、価格差はかなりあるのだが、それを納得させられるだけの差が音に出た。
4曲目
ここまでAccuphaseをずいぶんと褒めたが、やはり気になる点はある。国産のオーディオ製品にありがちだが、音場の前後が浅く音が横一列に並んでしまう。この曲では、ボーカルとドラムは空間の同じ位置から出てくるように聞こえるし、ギターとベースも同じ位置に立っているように聞こえてしまう。一つ一つの音は凝縮されて濃く、聴き応え十分だがそれぞれの空間が分離しない。だから、生演奏と比較するとどうしても違和感が生じてしまう。これがAccuphaseの特徴であり、好みが分かれるところだと思う。
しかし、Stellaとの組み合わせでは、音数の多さや情報量補豊富さがすばらしく、前にも書いたがそういうネガティブな部分よりもポジティブな部分が上回る。オーディオの良さが、わかりやすい音だ。オーディオ的な快楽、HIFI的な快楽に満ちた音だが、生演奏とは違う世界なのも間違いない。

QUADよりも個々の音ははっきりするが、音の広がりが横一列でホールで演奏している感じが出ない。
もともと音の広がりに欠けているソフトだが、Accuphaseで鳴らすとその悪い部分が増長されてあまりおもしろくない鳴り方になってしまう。
さらにアタック部分の付帯音の影響で細かい音がきちんと分離せず、ハーモニーが団子になってしまうから、ちょっと始末に悪い。
悪い座席位置でコンサートを聴いている感じ。音は悪くないが、他の2枚のほどは感動しなかった。