フェイズテック HD-7A  HD-7Rb Phasetech 音質 テスト 評価 販売 比較

Phasetech HD-7A、HD-7Rb 音質インプレッション

カートリッジやフォノイコライザーアンプ、昇圧トランスなどアナログ系の製品を得意とするPhasetech(フェイズテック)が発売した、USB入力対応DAC HD-7Aは音の良さ、外観の美しさ、コンセプトの先進性が評価され予想以上のヒット商品になりました。

このモデルには外部からワードクロックを入力し、ジッターを低減して音質を改善する目的の外部クロック入力端子が備わっています。今回発売されたHD-7Rbは、HD-7Aに使うために作られた、ルビジウムをクロック発信子に使った超高精度クロック発信器です。

HD-7Rbの発信周波数は10MHzで一般的なワードクロックの周波数ではありません。この製品がお使いいただけるのは、Phasetech HD-7AとEsotericの10MHz入力対応製品(K-01/K-03/G-03Xなど)です。

早速、HD-7Aと組み合わせて音質をチェックしてみました。

逸品館お薦めのAntelope Audio OCXやBrainstorm DCD-8にも10MHzの入力が備わっています。逸品館のテストではきちんと接続できてロックしました。ただし、出力電圧表記の規格が異なるため(HD-7Rbの出力電圧の表記が低い)ため、問題なく繋がるかどうか?現在調査中です。

Phasetech HD-7A

メーカー希望小売価格 ¥260,000(税別)
生産完了

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形式 USBオーディオインターフェース
入力 USB(type-B)
COAXIAL(RCA)
OPTICAL(TOSLINK)
10MHz外部クロック(50Ω BNC)
USB対応OS Windows XP(SP2以降)
Windows Vista
Windows 7
Mac 10.1以降
対応再生データフォーマット 16/24bit
44.1kHz/48kHz/88.2kHz/96kHz(USB、OPTICAL)
176.4kHz/192kHz(COAXIAL)
ワードシンク出力 5.0V TTLレベル矩形波(BNC)
アナログ定格出力電圧 2.0Vrms
チャンネルセパレーション 105dB以上(10〜22kHz)
アナログ出力S/N比 110dB以上(10〜22kHz)
周波数特性 5〜40kHz(+0,-2dB fs=96kHz時)
歪率 0.008%以下(1KHz 0dBfs)
出力インピーダンス 130Ω
消費電力 11W(AC100V 50/60Hz)
最大外形寸法(mm) 260(幅)×77(高さ)×327(奥行)
質量 3.2kg
付属品 ACパワーケーブル、USBケーブル

Phasetech HD-7Rb

メーカー希望小売価格 ¥680,000(税別)

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形式 ルビジウムクロックジェネレーター
10MHzクロック出力 0.5V p-p
出力インピーダンス 50Ω(BNC)
消費電力 16W(AC100V 50/60Hz)
最大外形寸法(mm) 260(幅)×77(高さ)×313(奥行)
質量 3.8kg
付属品 ACパワーケーブル、BNCケーブル

音質テスト

プレーヤー:DELL Vostro 3700、Windows XP、WIN-AMP

Dell™ Vostro™ 3700

OS Windows(R) XP Professional Service Pack 3
CPU Intel CORE i5-460M  (動作周波数 2.53GHz)
メインメモリ DDR-SDRAM 3GB
サウンドシステム AC'97 Audio
ハードディスクドライブ 320GB (SATA / 7200回転)

プレーヤーには一番最近購入した、DELLのノートPCを使いました。いつも使っているGATEWAYよりも音がクリアで良いのですが、周辺機器の対応性に若干問題があり(音が途切れることがある)、イベントではGATEWAYを使っています。HD-7AとはUSBで接続し、ケーブルはwireworld Ultra Violet 5-2 USB2.0を使いました。

この状態でPCにWAVEでリップしたいくつかの音源を聞いてみました。

HD-7AはPCとの接続でも、内部に備わったジッターキャンセルICの効果で、過大なジッターが発生せずS/N感に優れ中〜高域が滑らかです。癖のない緻密な音は、Victor Laboratoryにシリーズに非常によく似て上品ですが、グッとくるパワー感が少し足りない感じも似ています。

この製品にはやはりVictorの流れをくむ「K2インタフェイス」が搭載されています。この機能を使うことで、周波数方向に4倍、ビット方向に4Bit分のデーター伸長が行えます。この機能を使った場合と、送料立替金でない場合の音質を比較しました。

K2インターフェイス(4倍オーバサンプリングモード)、インジケーター赤色

高域の周波数特性に変化が聞き取れ、高域がより高い周波数まで伸びてゆく。しかし、中低音がそのままなので全体的な音のバランスが高域よりになって、使わないときよりも音がやや細くなった。

K2インターフェイス(4倍オーバサンプリング+20Bitモード)、インジケーター緑色

高域の解像度感や伸びやかさの改善は「4倍オーバサンプリングモード(赤色)」と変わらないが、中低音が膨らんバランスが改善されたことで、何もしないときに比べ明らかに音が良くなるのが聞き取れる。お薦めのモードだ。

HD-7Rbはフロントパネルに電源スイッチもなく、非常にシンプルに仕上がっています。黙っていれば¥68,000でも高いと思うかも知れませんし、かなりディープなオーディオマニアでなければこれが68万円もする装置だとは絶対に気づかないでしょう。

接続は非常に簡単でHD-7RbとHD-7AをBNCケーブルで繋ぐだけです。ただ、周波数が高いのとクロック精度を落とさないために、高品質なケーブルを使うことを強くお薦めします。今回はAETのSIN/DG75相当品(両端BNC)を使用しました。

HD-7Rbの追加でHD-7Aの音はさらにきめ細かくなり、S/N感が改善されます。きめが細かくなった効果で音質にしっとりと艶が出て、より上品な音になります。木綿豆腐が絹濾し豆腐になったイメージです。確実に音は良くなります。良くできたクロックジェネレータであることは保証できますが、変化の絶対量が価格ほどは大きくないと思いました。

たとえば同じ68万円を追加投入するなら、HD-7Aの電源と出力ケーブルをAETのEvidenceに変える方が、何倍も音は良くなります。10MHzクロックとケーブルを同一に比較するのは間違っていますが、同じコストをかけるならば「他のアクセサリー」を使った方が、価格対効果は大きいと感じたことを付け加えておきたいと思います。

AIRBOWマルチプレーヤーUX1 Supreme emotion AIRBOW UX1SE/LTD \1,500,000

 Antelope Audio OCX

次にHD-7AとOCXをクロックジェネレーターとして使った場合の音質をAIRBOW UX1SE/LTDを使って試聴してみました。

Antelope Audio OCX

UX1SE/LTDに追加することで音が非常に滑らかになり、アナログ的な雰囲気で音楽を聴けるようになる。

さらに10MHzクロックにPhasetech HD-7Rbを繋ぐと音調はそのままで音が細かくなりました。しかし、HD-7Rbの出力電圧ではOCXは動作しないはずなので、今回は「エラー」として繋がったと考えた方がよいと思います。

HD-7A

UX1SE/LTDに追加することで音が細かくなるが、デジタル的に硬く高域が細くなる。明らかに良くなったと感じられるOCXとは対照的に、こういう方向の変化は好ましいと感じられない場合もありそうだ。

HD-7RbをHD-7Aに接続すると数割以上音が良くなったが、デジタル的で硬い音調は変わらなかった。

まとめ

ここ数年のデジタルオーディオの進歩はすさまじく、良い方向へ進化した機器の音は明らかに改善して、旧来の機器よりも数段音が良くなってきました。しかし残念なことにデジタルでは避けられない不毛な「数字競争」が再燃しているように思えてなりません。特にPCオーディオ関係のマニアの「数字信奉」が強いように思えます。

私は時々インターネットを検索し「一般市場における機器の評価」を調べることがあります。中には「個人的な思い込みの範囲を脱しない間違った評価」があると感じていますが、特にPCオーディオ関係の情報が乱れているように思います。音楽や芸術的な評価をきちんと下すためには、数多くの経験と成熟が求められます。「確信」に至らない段階では、まだ音(音楽)を正しく論じられません。人生経験、音楽経験、オーディオ体験を積めば、なにがよいのか?自ずとわかってくると思います。もちろん、そういう「おかしな情報」ばかりがインターネットに流れているわけではなく、有益な情報もあるわけですから、受け手側に「きちんとしたフィルターを持つこと」が求められるのでしょう。

話は本題に戻ります。今回のテストでは「クロックの改善」よりもケーブルなどによる変化の方が大きいと思えました。他のページにも書きましたが、デジタルの本質は「低価格で高音質を実現する」ことです。デジタル関係の集積回路(IC/LSI)は毎年大きな進歩を遂げていますが、オーディオ機器ではそれを生すためのアナログ回路が重要になります。PCオーディオ関連ではハイスペックのICを搭載して、音が出るようにしただけで売られている機器がたくさんあります。中には首をかしげるほど高価な機器もありますが、ほとんどは全くスペックに比例しない貧弱な音しか出てこないように思えます。

デジタル機器も「基本的なアナログ部分がシッカリできていないと、スペックの良さが発揮できない」ことは今の経験では明かです(今後変わることは否定できません)。またデジタル回路(IC)は進歩して安くなりましたが、少量の特別生産でしか作れないオーディオ機器のアナログ部分は逆に高くなっています。

その結果として、ICを多用しそれが全体コストに大きな影響を与える「普及機(特にAVアンプ)」の性能は向上していると考えられます。逆に多くの部分がアナログで組まれる高級オーディオ機器では、数千円のICが数百円になったところで全体的なコストにはほとんど影響せず、高級機の市場では飛躍的に安くて音が良い機器が生まれることはなさそうです。

スペックが優れていても「アナログ部分にしっかりとコストがかけられていない機器」は音が良くありません。逆にスペックが劣っていても「アナログ部分がしっかりと作られた機器」は高いスペックの機器を上回る音が出せます。デジタル機器も最新で高スペックならば「音が良い」という単純な考えは通用しません。それがオーディオです。そういうことを踏まえて先入観をリセットし、機器の試聴や検討を行っていただければ、また違う世界が見えてくるのではないでしょうか?

2010年10月 清原 裕介