「AURA - VA40 rebirth」vs「marantz - MODEL 50」ピュアアナログ・アンプ聴き比べ

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目次

テストレポート概要

Aura(オーラ)と聞いて思い浮かべるのは、美しいクロムメッキ仕上げの薄型プリメインアンプです。英国のワーシングで1989年に操業を開始したオーラデザインのデビュー作「VA40」は、手頃なサイズと価格によって日本国内で大人気を博し、私もAURA Designの「見かけ通りのスピード感溢れるスッキリしたサウンドテイスト」が気に入って、逸品館オリジナルのチューニングモデル(当時はまだAIRBOWは樹立されていませんでした)「VA80SE Tuned by Ippinnkan」を製作販売していました。

その後同社はB&Wの傘下に入り、7年間ブライトンで生産が行われました。1996年にAURAのブランドは「オーラデザイン・ジャパン」に移管されて現在に至ります。
今回ご紹介する「VA40 Rebirth」は、オーラデザイン・ジャパンがAURA創業35周年を記念して、初代モデルの"VA40"を当時の回路に忠実に復刻し「日本国内」で生産するモデルです。当時の回路を可能な限り復刻するだけではなく、現在入手できる高音質パーツをふんだんに使いその音質も「リメイク」されています。

このアンプの大きな特徴として、音の純度を損なう「デジタル回路」を一切使わないことですが、それは「ワイヤレス・リモコンすら使えない」という徹底ぶりです。
今回はこの「VA40 Rebirth」を聞いて行くのですが、同じ時期に発売された 「marantz - MODEL 50」(リモコン付属)と聴き比べました。
日本で設計され「ベトナム」で生産される「marantz - MODEL 50」の成り立ちは、海外で生まれ日本で作られるVA40 Rebirthと対照的ですが、このアンプもリモコンが使えるようになっている以外は、VA40 Rebirthと同じくデジタル回路を持たない「ピュア・アナログ・プリメインアンプ」です。
デジタル回路レス+アナログAB級アンプを搭載するこの2つのモデルは,果たしてどのように異なるテイストを持っているのでしょうか。
モニタースピーカーとして「Wharfedale - Diamond 12.4」を使い聞き比べてみました。

今回のメイン使用機材

■ AURA - VA40 rebirth
(インテグレーテッドアンプ)
aura_va40re_spec

希望小売価格 250,000円(税別)

オーラデザイン創業35周年を記念して企画されたインテグレーテッド・アンプ。
初代モデルのVA40を冠したこのアニバーサリー・モデルは、
当時の回路設計を忠実に再現した純粋なアナログ・アンプとしてデザインされています。

■ marantz - MODEL 50
(プリメインアンプ)
marantz_model50_spec

希望小売価格 210,000円(税別)

上位モデルから回路構成や数多くの高音質パーツを受け継いだ
プレミアムなピュアアナログ・プリメインアンプ。

その他の使用機材

CDプレーヤーAIRBOW - CD50n Special(ネットワーク対応)
ミュージックPCCHUWI - Hero Box(高音質インバーター電源:AIRBOW - IDC-RMP12使用)
スピーカーWharfedale - DIAMOND 12.4(ペア・フロアスタンド型)
スピーカーケーブルAIRBOW - SPK-300(特殊エイジング済)
電源ケーブルAIRBOW - KDK-OFC(2.0m)
LANフィルターiFi audio - LAN iSilencer(ネットワークLANフィルター)
オーディオボードAIRBOW - WFB-4449H-HD(ウェルフロートボード)

試聴テスト使用楽曲

試聴テスト本文

以上、3つの内容・項目に分けて試聴テスト内容・動画を掲載しています。

1. ピュア・アナログアンプ「Aura - V40 rebirth」vs「marantz - MODEL 50」聴き比べ(1)・概要説明
2. ピュア・アナログアンプ「Aura - V40 rebirth」試聴テスト
▼「Aura - V40 rebirth」音質評価楽曲別
せせらぎ見通しが良く広がりも大きい。立体的な定位も良く、音の濁りが少ないので透明な水がすがすがしい森の中を流れているように感じられる。
帯域バランスは高域がやや強く、低域がもう少し出て欲しいが、低域が不足すると言うほどではない。
印象的だったのは、鳥の声がとてもリアルに聞こえたことだ。
エルガー 愛の挨拶
五嶋 みどり
せせらぎと同様にピアノの低音域は、「音階としては聞き取れる」が、体に感じる低音としての重みや厚みは少し足りない。同様に、バイオリンも3弦4弦がやや細めに感じられるやや高域寄りのバランスを持っている。
しかし、音の濁りの少なさ、楽音のピュアさはすばらしく、細かい音やデリケートな音色の変化(楽器操作の変化)まできちんと再現される。
音場は,このサイズのアンプであることを忘れさせるほど大きく広がり、体全体が音に包み込まれる「サラウンド感」を味合わせてくれる。
聞いていて楽しい明るめの音で「愛の挨拶」が鳴った。
バッハ・バイオリン協奏曲
ヒラリー・ハーン
高域にやや強調感があり、弦楽器の「金気」が強めに感じられるが、弦の音はスムースで変化に富む。
ソリストにスポットライトが当たったように伴奏から一歩抜けてくる感じの明るく快活な音でバッハが鳴るが、多くの弦楽器が重なるところでの「分離の良さ」は、このクラスのアンプではずば抜けていて、そこにピュア・アナログアンプへのこだわりが感じられる。
Never An Absolution
(タイタニック)
バグパイプの音にはリード楽器らしい「強さ」が出る。張りのある高音が、天井知らずに上方に抜けて行く感じもすばらしい。
低域は十分に低いところまで出るが、地を這うような重々しい感じまでは再現されない。
空間の濁りがとても少なく、立体感にも優れているのは、「せせらぎ」と同様。さらにボーカルがチャーミングな魅力に溢れ、伴奏からすっと抜け出てくるのが印象的だった。
Stranger
Double
金属打楽器の音は、非常にスッキリと伸びて響きも透明で美しい。
指打ちの音も硬くならず人間の皮膚感覚が再現され、とてもリアル。
打ち込みの低音は「出過ぎない感じ」がこの曲には上手くマッチしている。
電源回路の小ささ故にウーファーの立ち上がりと制動は僅かに緩いのだが、コーン紙が緩やかに前後することによって生み出される「低音の響き」が生み出す「適度な包まれ感」が心地よい。
女性ボーカルはチャーミングな魅力に溢れ、ぐいぐい引きつけられる。
夏の終わりのハーモニー
玉置 浩二
イントロが鳴り始めた瞬間「夕日が落ちる秋の黄昏」が見えた。
ギターもピアノも音は緩いのだが、それが奏功していかにも「名残惜しさ感じさせるイメージ」でポロポロ鳴る。
ボーカルは耳のすぐ側で語りかけてくるような、近接感がすごい。
音の厚みや密度は超高級機には敵わないが、音楽を聞かせる楽しさ、味わいがある。
いっそセレナーデ
島田 歌穂
この曲ではボーカルがすばらしい。
ピアノも音色の変化に富むが全体的に音がやや薄く、希薄な感じがあったが、空間の濁りのなさ、S/Nの高さは特筆ものだ。
ベートーベン
ピアノ協奏曲 第5番《皇帝》
低音の畳量感や押し出しが足りず、フルオケのエネルギーが再現されない。
やや弱々しい音になってしまった。室内楽は良い音で聞かせてくれるが、大編成の交響曲には向かないようだ。
雨の日曜日
古内 東子
古内東子さんの「癖のある声」がこんなに魅力的に再現されたことは今までになかった。
伴奏に使われているアコースティック楽器の音もすばらしく、過去聞いた「雨の水曜日」では最高の出来映えだった。
思いがけず、感動してしまった。
3. ピュア・アナログアンプ「marantz - MODEL 50」試聴テスト
▼「marantz - MODEL 50」音質評価楽曲別
せせらぎ低音がより良く出る。「水量」は、明らかにVA40 rebirthよりも数割は多く感じられる。
しかし、空間の透明感(濁りの少なさ)は、その部分に特化してチューニングされたVA40 rebirthが上回り、鳥の声のピュアさもVA40 rebirthに譲る。
音の立ち上がりが早く、ウーファの制動も良く聞いて無駄な響きも少ない。
ストレートで力強い音。正統派のサウンドだ。
エルガー 愛の挨拶
五嶋 みどり
ピアノの低音がしっかり出て、バイオリンの音も太くなった。
ピアノの響きにはやや濁りが感じられるが、聞き慣れたバランスの安心して聞ける心地よい音になった。
バッハ・バイオリン協奏曲
ヒラリー・ハーン
弦楽器の切れ味がまし、押し出し感も強くなる。
ハーモニーの「厚み」は増すが、濁りはやや大きくなった。
音が重なった部分でのクリアな分離感はVA40 rebirthが良かったがそういう音のアンプは少なく、MODEL 50は一般的なバランスで落ち着いた音で音楽を力強く聞かせてくれる。
Never An Absolution
(タイタニック)
VA40 rebirthでは「1本」に聞こえた「バグパイプ」が「複数本」になった。これは「パラレルプッシュ(2個のトランジスター)」が再生するバグパイプの音が僅かに異なるために起きる現象だが、たぶん普通の人には聞き分けられないだろう。それによりピュアな音が若干濁るのだが、それは逆に厚みが出るという良い方向に評価されることが多い。
『一時Accuphaseが「DACチップを複数同時に動作させる」というCDやDACを出していて、私には「音が濁る」だけの「改悪」としか感じられなかったが、当時の一般的な評価は「厚みが増した」と高かった。』
逆に濁りがあまり気にならない中低域の重量感や厚みは大幅に改善され、ウーファーの口径がワンサイズ大きくなった感じがした。
ボーカルは暖かく滑らか。
すべての音が少しずつ混じり合いクリーミーに包み込まれ、聞き慣れた感覚の落ち付ける音でこの曲が鳴った。
Stranger
Double
澄み切った金属系の音、指打ちの音に僅かに濁りが感じられる。
低音は素早く立ち上がり、膨らまずに消えるが、量はかなり多くなる。
趣味性はVA40 rebirthの方が高いが、MODEL 50は聞き慣れた良い音が出る。
夏の終わりのハーモニー
玉置 浩二
ピアノの音が太くなり、ギターの音も力強い。楽器のエネルギー感は断然MODEL 50に軍配が上がる。
ボーカルはちょっと距離が遠くなり、訴える力も弱くなった。
直接的ではなく、間接的な表現でこの曲が鳴る。
いっそセレナーデ
島田 歌穂
ピアノの厚みはすばらしいが、ボーカルの求心力ではVA40 rebirthに敵わない。
ベートーベン
ピアノ協奏曲 第5番《皇帝》
中低音の厚みが出て「交響曲らしい」押し出しの強さ、エネルギーの大きさが再現される。
VA40 rebirthでは、交響曲のスケールがまったく再現出来なかったが、アンプを変えると演奏が大きく躍動(運動)し始め、交響曲を「聞いている」という感じが出てくる。
この曲は圧倒的にMODEL 50に軍配が上がる。
月光(Album Version)
鬼束 ちひろ
やはり「ボーカル」、それもメッセージ性の強い曲では、VA40 rebirthの「訴求力」がものを言う。
VA40 rebirthで「雨の水曜日」を聞いた後では、鬼束ちひろという極めて「強い」ボーカルの表現力が物足りなく感じられる。
ただ、現代的なJ-POPの多くは、雨の水曜日や月光のように「オーケストラを伴奏」に使わないし、リズムと歌詞だけで音楽が成り立つので、VA40 rebirthの良さは引き出せないだろう。となると、帯域バランスやエネルギー感に優れたMODEL 50がより高い評価を得られるはずだ。

試聴テスト後の感想・総評

レポート  逸品館代表 清原 裕介
作成日時           2024年1月

■総評「Aura - VA40 rebirth」

VA40 rebirthの長所は、シンプルな回路を生かした音の「純度の高さ=ピュアさ」にある。
バイオリンのソロや室内楽、小編成のクラシックとの相性は抜群で、特に弦楽器のとの相性は抜群だ。
ボーカルは女性男性を問わず、非常に魅力的に聞かせてくれる。
音質は少し明るめで楽しい雰囲気で音楽を再現する。
低音は出るが重量感や密度感はそれほど高くないので、シンフォニーや低音が中心の音楽にはあまり向かない。
小型~中型の音色が良いブックシェルフ型スピーカー、たとえば「DALI - OPTICON Mk2」や「QUAD - S-2」。
または小型のフロア型「DALI - OBERON 5」や「SonusFaber - Lumina 3」などとの相性が良いかも知れない。
逆に「B&W」や「JBL」などのスピーカーには向かないように思える。

■総評「marantz - MODEL 50」

ピュアさはVA40 rebirth。力強さはMODEL 50。
それぞれに持ち味が違うが、様々なスピーカーは音源への「対応力」はMODEL 50に軍配が上がる。
VA40 rebirthには「リモコン」も付かないし、よりマニアックな製品という位置づけになる。
個人的には「ハマる」と超高級機さえ凌駕するような「魅力」を感じさせてくれたVA40 rebirthの方が好きだが、
人に勧めるならば使いやすく一般的な歌謡曲を「そつなく聞かせてくれる」MODEL 50を選ぶだろう。
VA40 rebirthは「ピュアスポーツカー」あるいは「レストランの味わい」を持っている。
MODEL 50は「ミニバン」で「お袋の味わい」を持っている