B&W - 800D4シリーズを、D&M 川崎本社試聴室(澤田ルーム)で澤田氏と一緒に聴き比べてみた

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目次

レポート概要

私にとって「B&W」は、長年やっかいなブランドでした。ブランドイメージが高く、アビー・ロード・スタジオで使われているということもあって「音が良い」と言うことが通説だったからです。

けれど残念なことに、私は今までB&Wで音楽を楽しめたことがなかったのです。

私はコンサートの録音時、リハーサルで「ピアノの調律」に立ち会ったことがあります。子供の頃ピアノ学校に通わされ、練習がいやだったので「聴き取りテスト」ばかりやらされていたこともあって、ピアノの音にはとても敏感です。各音の周波数がきちんと割り切れる数値で構成される「純正律」とは違い、現代音楽に使われる音階「平均律」は、割り切れない周波数を使います。そのためピアノのように複数の弦が同時に鳴る(共鳴する)楽器では、周波数のずれに応じた「うなり」が生じます。ピアノを調律するときには、それぞれのキーの音階を合わせるだけではなく、複数のキーの音のずれ(うなり)も調整します。それでもコンサート(演奏中)の空気の温度・湿度などでズレてしまうほど、調律とは繊細なものです。

けれど正確に調律されているはずのピアノをB&Wで再生すると、「ツィーター」、「スコーカー」、「ウーファー」で再生されるピアノの音が「微妙にマッチしない」のです。例えるなら、ツィーターは「スタインウェイ」、スコーカーが「ヤマハ」でウーファーは「河合」という具合に、各ユニットが割り当てられている周波数帯域によって再生される「ピアノのブランド」が違って聴こえるほどなのです。今まで、その理由はダイヤモンド振動板の「音色」とその他の振動板の「音色」が違っているからだと考え、ダイヤモンド振動板をあきらめない限り、B&Wの音は良くならないだろうと考えていました。実際に2018年11月に発売された「アルミニウム振動板」をツィーターに使う、607S2 Anniversary Editionを聴いたとき、それまで私にとって「評価対象外」だった、あのB&Wがクラストップレベルの音質に変貌していたことに大変驚きましたし、2020年7月に発売された「アルミニウムをカーボンでコーティングした振動板」をツィーターに採用した、B&W - 702S2 Signatureに至っては、過去発売された「すべてのB&Wで最高!」と感じたほどです。

だから、800シリーズがD4になって、どんな音を聴かせてくれるのか?あるいは、再び苦い失望を味あわされるのか?ドキドキでした。そして10月、D&M本社の試聴室ですべての800D4シリーズを聴き、私はとても驚かされました。あの!B&Wが文句の付けようがないほどナチュラルで、素晴らしい表現力で音楽を奏でてくれたからです。アビー・ロード・スタジオがすべての800D3シリーズを「即時800D4シリーズに入れ替えた」と聞いて、納得しました。

当然、こんな大ニュースは「空気録音」でお客様にお伝えするべきです。
いつもならば、すべての800D4シリーズを逸品館に持ち込んで「空気録音」するのですが、今回はあまりにもスピーカーが大型過ぎるのと「D&M川崎試聴室」(澤田ルーム)という本丸では800D4がどんな音で鳴っているのか? これもお客様にはとても興味のあるところだと思い、今回は私がD&M川崎本社試聴室(通称澤田ルーム)まで「収録機材」を持ってお邪魔し、澤田さんにお話を伺いながら「リモート試聴会」という形式で、動画を撮影した方が良いと考えました。
D&Mの全面的な協力が得られ、2022年1月14日(大安)に「澤田ルーム」を訪れ、オーディオ界のレジェンド澤田氏にお付き合いいただきながら、B&W - 805D4 ⇒ B&W - 801D4(降順)で、すべての800D4モデルを「取材=空気録音」しました。

今回のメイン使用機材

その他の使用機材

CDプレーヤーmarantz - SA10
パワーアンプmarantz - MA-9S2(モノラルパワーアンプ)
プリアンプmarantz - SC-7S2(ステレオプリアンプ)

試聴テスト使用楽曲

試聴テスト本文

それでは、大きく進歩した「800D4シリーズ」の音を「空気録音」でお楽しみ下さい。
※解説の関係上、動画はなるべく製品型番の降順(805D4 ⇒ 801D1)でご覧下さい。

1. B&W - 805D4 試聴テスト(空気録音/D&M本社「澤田ルーム」にて)
2. B&W - 804D4 試聴テスト(空気録音/D&M本社「澤田ルーム」にて)
3. B&W - 803D4 試聴テスト(空気録音/D&M本社「澤田ルーム」にて)
4. B&W - 802D4 試聴テスト(空気録音/D&M本社「澤田ルーム」にて)
5. B&W - 801D4 試聴テスト(空気録音/D&M本社「澤田ルーム」にて)

試聴テスト後の感想・総評

レポート  逸品館代表 清原 裕介
作成日時           2022年2月

■2回の試聴を終えて

まず、1度目の機会となった2021年10月に開催されたD&M川崎本社での「800D4」発表会での試聴時、すべての800D4シリーズを聴いて私が注目したのは、「805D4」「802D4」の2つのモデルです。

◎B&W - 805D4
805D4は、B&W - 607S2 AEが聴かせてくれた「精緻さと美しさの融合」がさらに昇華され、クリアでシャープな中高域が聴かせるホログラムのようにリアルな定位、サイズを感じさせない豊かな低音を再現し、このサイズ、このクラスで唯我独尊の素晴らしいスピーカーに仕上がっていると感じました。805D4は、10畳程度までのリスニングルームでは、最高の相棒となるはずです。

◎B&W - 802D4
802D4は、805D4で唸らされた「精緻さと美しさの融合」をさらに深化し、スケールアップしたその音は、マニアが「B&W」と聞いて想像する「最高のサウンド以上」の素晴らしい音質に仕上がっていると感じました。

残る3つのモデルですが、803D4と804D4は、同じ価格帯で他に(例えばVienna Acoustics)などの競合が存在すると言う理由で「唯一の推薦スピーカー選」という枠からは漏れました。そして801D4は、ウーファーのサイズが大きすぎて低音を引きずるので、30畳以上の専用リスニングルームで「爆音」を出さない限り、802D4がすべての点で勝ると考え、やはり推薦から外しました。

しかしながら、2度目の試聴となる今回の動画撮影時、私にとってはすでに体験した試聴内容の繰り返しになるはずでしたが、中でも801D4のみは「まったく印象が変わって」いました。

◎B&W - 801D4
先に書いたように、2021年に聴いた時点では、801D4は爆音で鳴らして始めて実力を発揮できるスピーカーで家庭用には向かないと感じたのですが、イベントなどでの鳴らし込みの成果が功を奏したのか、今回の撮影時に澤田ルームで聴いた801D4は、スピーカーが変換出来るかできないぎりぎりの微小信号すら確実に音に変えて、無音部にすら濃厚な気配を醸し出せるほどの「成長」を遂げていました。これなら、ご家庭での最小音量からスタジオでの爆音まで、あらゆる複雑な音を正確無比に再現できるでしょう。さらにこの日聴いた801D4は、ただ忠実なだけでなく、音楽の躍動感・生命感までグイグイと伝えてくれました。
澤田さんも仰っていましたが、801D4のこの変貌は「ウーファーの微小信号のレスポンス向上」によってもたらされたと考えられます。今回のモデルチェンジで、801D4はウーファーを支えるダンパーを従来の2つから1つに減らし、「ウーファーの動きやすさ」を改善していますが、数ヶ月の鳴らし込みによって、そのシングル・ダンパーがさらに小慣れた結果、評価が激変したのでしょう。

以上が、B&W「信者」でない私が趣旨替えをさせられるほどの、この800D4シリーズ(B&Wスピーカー)の「変貌ぶり」です。

■補足

B&Wに限らず「ウーファーの動きやすさ」と「動きの正確性」は、スピーカーの音質改善にとても重要な役割を持っています。例えば「TANNOY - VINTAGE」モデルのウーファーは、経年変化の少ない硬いエッジがほぐれるまでその進化を発揮しません。「ほぐれ」にかかる時間は、普通の音量なら少なくとも数百時間から千時間近くかかります。その後もどんどんこなれて行きますから、TANNOYは本領を発揮するまで数年、鳴り切るにはそれよりもさらに長い時間が必要です。月に数日程度しか使わないならTANNOYは、いつまでたっても本領を発揮できないでしょう。

少し話は変わりますが、逸品館3号館には、国産最高峰であると共に世界最高峰でもある、「TAD」のフラッグシップ・モニタースピーカー「R1TX」を設置しています。
このスピーカーは、世界で唯一「スピーカーが理想とする点音源」と「同一素材の振動板」を最も高いレベルで実現する「同軸2Wayユニット(CST)」を搭載しますが、このユニット(CST)には「TADだけの蒸着方式(他メーカーは鍛造)」によって作られる究極のベリリウム振動板が使われています。通常の「鍛造」で加工されるベリリウムよりもさらに軽く、内部音質の大きいこの「蒸着製法ベリリウム」を振動板に使うことで、CSTは「250Hz~100kHz」の広帯域を「口径16mm」のユニットから再生します。この「CST」は、初代R1から最新のR1TXまで「同じもの」が使われています。もちろん、R1TXにも同じものが使われています。

TAD - R1TXは、音波の回折低減のためエンクロージャのエッジがMK2よりも僅かに「丸み」を帯びています。これは、エンクロージャ-の製造メーカーを「天童木工」に変えることで可能となりました。それ以外の部分、全体の形状やサイズ、あるいはユニットなどには変更が加えられていないように見えますが、TAD - R1もMK2からTXへのモデルチェンジでB&W - 800D4シリーズと同じように「ウーファーの初動感度」が改善され、微小信号でもしっかりとウーファーユニットが動くようになったことで、音色(色彩感)が濃くなり、演奏の表情がより一層有機的で色濃く再現されるようになりました。特にその変化は小音量時で大きく、またセッティングの難しさも大きく緩和されました。

このR1TXの「変化」は、今回800D4シリーズで感じたものとまったく同じでした。今まで「高域が問題」と思っていたのが実は間違いで、実際は中低域の「レスポンス」が、高域のユニットに追いついていなかったことだと、800D4シリーズとR1TXを聴いて理解できたのです。

そしてこの「初動感度の高さ(早さ)」と音楽の再現性の密接な関連性は、スピーカーだけではなくすべてのオーディオコンポーネントやアクセサリーにも通じます。今回「音源」として使用したTAD - D1000TXも「レーザー光補正レンズの追加によるピックアップレンズのピント向上」、「電源のグレードアップ」、「非磁性体抵抗」の採用などにより、やはり「微小信号の再現性(初動感度の向上)」が実現し、MK2から大幅な音質改善を達成しています。

今なお、TADの音を「無表情で冷たい」と誤解している方は、是非新しくなったTXシリーズの音質もチェックしていただければと思います。

TADスピーカー試聴動画はこちら

■TAD - R1-TX、R1-Mark2
新モデルと従来モデルの比較(1)

■TAD - R1-TX、R1-Mark2
新モデルと従来モデルの比較(2)

■TAD - R1-TX、R1-Mark2
新モデルと従来モデルの比較(3)